高齢者住宅新聞連載 村田裕之の「シニアビジネス相談室」第79回
機能性表示食品の約6割が販売中止になっている現実
機能性表示食品制度が2015年4月に始まって以来、2024年1月28日現在で7,902件もの食品が届け出されています。届け出が承認されれば、製品に「機能性表示食品」と表示でき、国によるお墨付きを得たとうたえるからです。
一方、このうち既に販売終了のものが4,506件あり、販売継続率は43%。言い換えれば、約6割はせっかくコストをかけて届け出ても販売中止に追い込まれているのです。
つまり、「機能性表示食品」と表示できることと、当該製品が消費者に売れることとは全く別ということです。特にシニアに売れている製品では、機能性表示の有無は売れ行きにあまり関係がないように見えます。
コスパ感と飲みやすい点が受けている森永乳業の「ミルク生活」
例えば、森永乳業の「ミルク生活」は、利用者の7割が60歳以上で、男女比率は80%が女性。店頭での市場シェアは90%以上です。
1回20グラムの摂取でシニアに必要なたんぱく質やカルシウムなどの栄養分がまとめて摂れる点、ミルクなのに牛乳臭くなく、牛乳が苦手な人でも飲みやすい点などが受けています。
加齢に伴い不足するが普段の食事では摂りにくい栄養成分を少量でも必要分摂れる利便性が費用対効果を感じさせ、納得性を高めているからです。
酸化しにくい、使いやすい点が受けている「日清有機えごま油」
日清オイリオの「日清有機えごま油 フレッシュキープボトル」は、累計280万本出荷の人気商品。22年度購入者の90%が50歳以上、男女比は15対85で女性が多いです。
魚以外から摂りにくいオメガ3脂肪酸が小さじ一杯で1日分摂れる点、開封後も酸化しにくく、油ダレしにくい容器で使いやすい点、クセのないさっぱりした味と香りでどんな料理にも使える点が受けている理由です。
オメガ3脂肪酸は、血中の中性脂肪低下、血管にできたプラーク(動脈硬化巣)安定化、炎症抑制などの作用があると報告され、脳卒中や心筋梗塞の予防に有用とされます。
これら2つの製品は「特定の機能性」を訴求していますが、機能性表示食品ではありません。手軽に必要な栄養分が摂れる、使いやすい、コスパがよい、などの点がシニア消費者に支持されているのです。
バイヤーが価値ありと思うことと消費者が価値を感じることにギャップ
1月31日付日経MJの「スーパーのバイヤーを対象にした調査結果」によれば、新たな付加価値のある商品開発が望める商品として最も声が多かったのは「機能性表示食品(飲料含む)」とのことです。
しかし、前述の通り、機能性表示食品だからといって必ずしも消費者に売れているわけではない。バイヤーが価値ありと思っていることと、消費者が価値を感じることにギャップがあるのです。
バイヤーは、機能性表示食品として届け出されたものの約6割が販売中止になっているという事実を認識すべきでしょう。
そして、メーカーは、機能性表示食品の届け出そのものより、ターゲット消費者がその製品に求めている「機能性」「利便性」「コスパ感」に磨きをかけることがより重要でしょう。
小売業のバイヤーが欲しがる商品は短期的には売れるでしょうが、それを消費者が求めていなければ、長続きしないということです。