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「シニア市場はビッグ・マーケット」という思考は危険

こんにちは、村田アソシエイツ株式会社代表取締役・東北大学特任教授の村田裕之です。

村田裕之(むらた ひろゆき)

Profile
1962年新潟県生まれ。1987年東北大学大学院工学研究科修了。日本総合研究所等を経て、02年3月村田アソシエイツ株式会社設立、同社代表取締役に就任。06年2月東北大学特任教授、08年11月東北大学加齢医学研究所 特任教授、09年10月東北大学スマートエイジング国際共同研究センター(現:学際重点研究センター)特任教授に就任。わが国のシニアビジネス分野のパイオニアであり、高齢社会研究の第一人者として講演、新聞・雑誌への執筆も多数。

シニア市場は、再び年々注目されていますが、「シニア市場に対する考え方」は決して深まっているとはいえません。

たとえば、「シニア層だからこういうのが良い」「こういうサービスは好きなはず」といった先入観だけで判断していることがあります。

市場が大きいからチャンス…と考えて参入すると痛い目にあいます。

シニア市場は、単一のマス・マーケットではありません。実は、多様なミクロ市場の集合体により、大きな市場を形成しているのです。

シニアビジネスのよくある失敗例

シニアビジネスを始めるにあたり、次のような失敗例がよくあるケースです。

失敗例
01
綿密な市場調査で、市場を把握しようとしている
綿密な市場調査で、市場を把握しようとしているシニア市場に参入したいという企業は、頻繁に市場調査を行います。近年の市場調査は、ネットアンケートで行われることが多いです。しかし、アンケート調査に基づいて開発した商品は、実際には売れないことが多いのです。革新的なヒット商品のアイデアというのは、市場調査からは生まれていません。

消費者の潜在ニーズは市場調査では明らかにならないのです。

なぜなら、ネットアンケートという手法自体に構造的な限界があるからです。さらに、それらのニーズは消費者側からは具体的に顕在化することはなく、そもそも消費者自身がそうしたニーズの存在に気がついていません。

このことから「市場調査を綿密に行って商品を開発しても売れない」という結果になってしまうのです。

失敗例
02
見込み客を集めることに力を入れている
見込み客を集めることに力を入れている見込み客を集めることは大切なことです。ただし、いくら膨大な顧客データを集めてリスト化していても、見込み客のままでは売上にはなりません。それは、氏名とデータだけのリストであって“見込み”に過ぎないからです。

大切なのは、見込み客から顧客になってもらうことです。
顧客になってもらうためには、顧客が求める「価値」を明確にする必要があります。

「そもそも潜在顧客が何の価値を求めているのか?」を把握していないまま、見込み客ばかり集めていても意味がありません。

“無料体験”などで見込み客ばかり集めていませんか?
見込み客が顧客にならないのなら、こういった部分の見直しが必要です。

失敗例
03
良い商品を作れば売れると思っている
良い商品を作れば売れると思っている
今の時代、類似商品が溢れているので、「良い商品」を作っただけでは売れません。特に商品を開発した売り手が、勝手に「良い商品」だと思いこんでいる場合は、まず売れません。良い商品かどうかを決めるのは顧客です。商品の買い手からすれば、どれも似ているように見えるので、「良い商品」を選ぶのではなく、その中でも価格が安いものが選ばれる傾向があります。そうなると、競合との価格競争となり体力勝負に陥ってしまいます。薄利多売ではビジネスは成長しません。
失敗例
04
「シニア層はこう」と決めつけている
「シニア層はこう」と決めつけている
「シニア層にはコレが響くだろう」と商品開発をしてみても、それが売れるほど単純ではありません。シニア市場がきわめて多様な市場だからです。たとえば、50歳代、60歳代の女性に「最近、体調や体型の変化で気になることはありませんか」と尋ねると両年代とも「体力の衰え」を一番目に挙げます。

ところが、50歳代が肌の衰えや更年期障害を二番目に挙げるのに対して、60歳代は関節の痛みを二番目に挙げます。

これに関連して、「美容や体型維持のために定期的にしていることはありますか?」と尋ねると、50歳代では「サプリメント」の服用が目立つのに対して、60歳代では「ウォーキング」や「スポーツジム」などでの運動が目立ちます。50歳代と60歳代の対策の差は、時間的余裕の有無に起因します。

仕事や家事、子育てで忙しい50歳代と、そうした作業から解放された60歳代との違いが消費行動の違いに表れているのです。こうした消費行動の差は、実は年齢ではなく、「身体の変化」の違いと「本人のライフステージの違い」によって生じています。

失敗例
05
会員制サービスで囲い込もうとしている
会員制サービスで囲い込もうとしている
「いかに顧客を囲い込むか?」という発想を持っていると上手くいきません。なぜなら、「囲い込み」という言葉に潜む売り手の論理が、顧客のニーズと相容れないからです。たとえば、クレジットカードの会員になったからといって、「囲い込まれている」と思う人は、ほとんどいません。利用者は、利用メリットに応じて複数のカードを使い分けているだけです。

それに「囲い込む」という売り手側の意図が見えた瞬間、買い手側は興ざめし、引いてしまうでしょう。

そもそも、本当に「価値」あるものを提供し、その「価値」が顧客に伝わっていれば、無理やり囲い込もうとしなくても、顧客のほうから自然に繰り返し利用してくれるものです。

…以上、5つだけに絞ってお伝えしました。

他にも失敗例はありますが、いずれにしても、シニア市場を「こうだろう」という“思い込み”だけで判断していると、いつまでも上手くいきません。

ビジネスを成功させるためにどうすべきか?

ここで、シニアビジネスを成功させるためのヒントを3つだけお伝えします。

01飽和市場と言われている市場の「周辺」を見直す
飽和市場と言われている市場の「周辺」を見直す
現代は新市場の成長速度が鈍化しやすく、すぐに市場が飽和するように見えます。しかし、飽和市場と言われている市場の周辺には、既存商品・サービスに何らかの「不(不安・不満・不便)」をもつ顧客が必ず存在します。なぜなら、多様な価値観をもつシニア顧客は、限られた商品・サービスではカバーしきれない多様なニーズをもっているからです。したがって、商品提供側が気づいていないが、顧客が感じている「不(不安・不満・不便)」を見つけ出し、その「不」を解消する商品・サービスに転換できれば、新たな事業機会を生み出せます。

たとえば、弊社代表の村田が2003年3月に日本で初めて紹介した「カーブス(Curves)」というアメリカ生まれの女性専用フィットネスクラブは、ターゲットである中高年女性の「不」を徹底的に解消することで成功した例です。

02身体の衰えによる「不便」を上品に解消する
飽和市場と言われている市場の「周辺」を見直す
ひところのシニア向け商品は、機能のみを重視した結果、「ダサい」「時代遅れのデザイン」というイメージがありましたが、最近のシニア層はファッションに敏感で、商品のデザインも大いに気にする人も増えています。「ハズキルーペ」が売れているのも、ダサい老眼鏡のイメージを脱したからです。高齢者用の杖も、おしゃれなデザインのものがたくさん登場しています。しかし、まだ改善の余地のあるアイテムもたくさんあります。代表的なものが、高齢者が杖代わりにも使う「シルバーカー」です。買い物の収納バッグ機能、休憩用の椅子の機能もあるカートですが、機能重視・スタイル無視の典型です。

また、「高齢者向けの靴」もまだまだです。滑りにくい、脱着しやすい、足に負担が少ないなどの機能優先で、おしゃれとはほど遠いデザインで、ファッションセンスを感じません。介護用品や福祉用具は、概してファッション性のあるデザインが遅れています。

団塊世代以降の世代は、若いころからファションに興味を持っていた人が多く、こだわりも強い層です。こうした人たちにはファッション性がますます重要になっていきます。

03IT弱者の「不」が多い市場を狙う
IT弱者の「不」が多い市場を狙う
高齢者の課題を解決する技術を「エイジテック」と呼び、近年注目を浴びています。従来存在するエイジテックとしては介護ロボットが典型例ですが、技術の先進性を売りにする供給者目線のものが多かったです。一方、優れたエイジテックとは、高齢者の立場をよく理解して気持ちに寄り添い、高度な技術を使っていても“技術の臭いがしない”ものです。例えば、ベンチャー企業のチカク(東京・渋谷)による通信機器「まごチャンネル」はその具体例です。人気の理由は、機器の接続が非常に簡単でインターネットやIT(情報技術)機器の知識が乏しい高齢者でも容易に扱える点です。

高齢者には使い慣れた家庭のテレビで気軽に家族と会話ができる点が受けています。

ネットによるビデオ会議ではパソコンやスマホなどが必要で、高齢者にはハードルが高い。またテレビを使うため画面が大きく、老親でも子供や孫の顔を大きく、はっきりと見られるのが好評です。

まだまだ多く存在するIT弱者を対象にするエイジテック市場は成長市場です。

…以上、3つだけポイントをお伝えしました。

プライベートセミナーで取り上げる事例

実例についてご紹介します。

ケース
01
新規事業に取り組む企業の場合
経営トップから「シニアをターゲットにした新規事業をやりなさい」と言われたが、自分たちだけでは知識や経験が不足している企業のケース。

ワークショップ型セミナーワークショップ型セミナー

(1)特定のテーマで村田がプレゼンします。プレゼンを基にしたディスカッションを通じてテーマと自社事業との関連事項との理解を深めていきます。

(2)特定のテーマで企業側が事業計画や尋ねたいことをプレゼンしていただきます。それに対して村田が回答・コメントする形で企業側の理解を深めていきます。

村田のプレゼンを聴いて、シニアビジネスについて学ぶ、あるいは企業側から村田に質問をして課題解決のための理解を深めていくワークショップ型セミナーです。

ケース
02
コンサル会社の場合
シニアビジネスを行っているクライアント企業からマーケティング戦略の提案と実行支援を求められているが、自社に知見が足りないコンサル会社のケース。

ヒアリング型セミナーヒアリング型セミナー

コンサル会社側が村田から聞きたいことを説明していただきます。それに対して村田が回答&コメントします。

ビジネスはスピードが命とも言えます。ゼロから知識を積み上げるよりも、その道の第一人者と意見を交わすことで、ニーズの把握やリサーチの時間を大幅に短縮して、ビジネス成功のスピードを速めることができます。

ケース
03
調査会社の場合
官庁・自治体から中小企業の高齢者ビジネス育成政策の支援を求められているが、自社に知見が足りず、専門家のチェックを受けたい調査会社のケース。

ヒアリング型セミナーヒアリング型セミナー

調査会社側が村田から聞きたいことを説明していただきます。それに対して村田が回答&コメントします。

自社のリサーチだけで政策案を作成するとクライアントニーズからズレたり、市場の実態からズレたりしてしまうことも考えられます。そうならないためには、その道の第一人者から知見を聞いてご自身のリサーチ結果と答え合わせをしていくことで、成功確率を高めるための支援ができます。

まずはご相談ください

  • 新規事業として
    始めたいけれど、
    わからないことが多い
  • 顧問先から相談されたけれど
    シニアビジネスについて
    詳しくない
  • 支援・サポートを
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メディア掲載

  • 日本テレビ news every(2021年3月29日)
    日本テレビ news every
    (2021年3月29日)

  • フジテレビ-めざまし8
    (2023年3月28日)

  • 朝日放送テレビ-news
    (2023年2月27日)
  • ラジオNIKKEI「健康ネットワーク」(2019年7月3日~5週連続)
    ラジオNIKKEI「健康ネットワーク」
    (2019年7月3日~5週連続)

  • シンガポールChannel-News-Asia-Singapore-Tonight
    (2017年4月25日)
  • テレビ朝日 ビートたけしのTVタックル(2017年2月19日)
    テレビ朝日 ビートたけしのTVタックル
    (2017年2月19日)

  • フジテレビ-新・週刊フジテレビ批評
    2015年9月19日

  • テレビ朝日-グッドモーニング
    (2014年9月26日)
  • NHKゆうどき「あしたをさがそう」(2014年8月28日)
    NHKゆうどき「あしたをさがそう」
    (2014年8月28日)

  • BSジャパン 日経プラス10
    (2014年3月3日)

  • BS11 本格報道INsideOUT
    (2014年2月26日)

  • 韓国KBSテレビ-世界は今
    2014年1月18日

最後に

「シニアビジネス」に取り組んできました私は、日本総合研究所に在籍していた1999年9月に「アクティブシニア市場」の可能性と情報化の進展による「スマートシニア」の出現を予想し、以降、20年以上にわたって「シニアビジネス」に取り組んできました。

この「シニアビジネス」と言う言葉は、今では多くの人が使うようになりました。しかし、相変わらず「金持ちの高齢者をだまくらかして儲ける」的な意味で使っている場合が後を絶ちません。

シニアビジネスとは、金持ち、時間持ちの年配層をターゲットに儲ける事業をやるという意味であっては決してないのです。

世界の高齢化2004年に拙著「団塊・シニアビジネス 7つの発想転換」で予言した通り、世界の高齢化が進み、日本のシニアビジネスが世界の注目を浴びるようになりました。

現在も日本は世界一の高齢化率(29.1% 2022年9月)であり、超高齢社会(高齢化率21%)を超える「超々高齢社会」へ突入しています。

※“超々高齢社会(ultra-aged society)”とは、高齢化率28%を超える社会を指します(WHO・国連による定義が無いため、私による独自の定義です)

世界の高齢化これからも日本のシニアビジネスの取り組みが注目されていきますが、単に表面的に注目されるのであってはならないのです。

それらを生み出し、経営する日本人の「精神」こそが、真に注目され、尊敬されるべきなのです。

そして、これから増えていく高齢者が可能な限り元気であり続けることが求められます。つまり、高齢者ができるだけ要介護状態にならないようにすることが必要です。

要介護になる原因の上位は、認知症・脳卒中・運動器障害です。これらの予防のためには、生活習慣の改善が不可欠です。

好奇心旺盛で趣味活動が盛んな人は脳が萎縮しづらいたとえば、好奇心旺盛で趣味活動が盛んな人は脳が萎縮しづらいということがわかっています。また、人とのコミュニケーションも大事です。

認知症を発症しにくい生活習慣を支援する研究、商品化への努力をどんどんやるべきだと思っています。

そして、高齢者が可能な限り元気であり続けるための商品の開発と提供こそが、シニアビジネスのあるべき姿だと私は考えています。

超々高齢社会の課題を、公的助成金や介護保険報酬に依存せずにシニアビジネスで解決することが、社会貢献となり、ひいては世界への貢献と繋がるのです。