シルバー産業新聞 連載「半歩先の団塊・シニアビジネス」第77回
顧客ニーズが見える仕組みを自前で持つこと
メーカーがシニア市場に進出するためには、まずは何から始めたらいいのか?それに対する一番の答えは、顧客ニーズが見える仕組みを自前で持つことだ。
一般に大企業がシニア市場への足がかりとして最初に行うのが、調査会社にアンケート調査、グループインタビューなどの市場調査を依頼することだ。しかし、私が見てきた限り、そうした調査結果の90%は役に立っていない。
なぜなら、調査を依頼する企業が、シニア市場でどのような商品やサービスを生み出して、どういう販路で売り出していくのか、という戦略がないまま、とりあえず市場の状況を調べてみよう、という程度のものが結構多いからだ。
そんなことに割ける予算があるのなら、自社で製造した商品が末端のエンドユーザーの間でどのような売れ方をしているのか、どういう評判になっているのかを、量販店や中間卸経由ではなく、直接、自分たちが知ることのできる仕組みづくりに、むしろお金をかけるべきだ。
しかし、それぞれの産業、業界には長年、守り続けてきた商習慣などの暗黙の縛りがある。製造業界にはメーカーがいて、中間の卸業者がいて、そして量販店、系列店などの小売り業者がいて、エンドユーザーがいる。
この序列をないがしろにすることはこれまでの商習慣の破壊であり、そうした既存の仕組みの改革には、メーカーといえどもなかなか踏み込めていない。しかし、もうそんなことは言っていられない状況であることは、経営トップなら、十分に分かっているはずだ。
メーカーが直接、通販会社を持つ
そうした既存の商習慣の破壊なしで、仮にメーカーが直接、シニアユーザーなどの消費者ニーズを把握する有効な方法は何か?それは、例えばメーカーが直接、通販会社を持つことだ。
そして、通販会社の運営自体はアウトソースでも構わないが、コールセンターなどの顧客接点のある部分は絶対にアウトソースしない。実際に顧客と接し、会話のやり取りなどが行われる業務領域は、自社の社員が直接行うべき。ここが重要だ。
実際、業績の伸びている通販会社はすべて、この手法でやっている。コールセンターには大きく二つの役割がある。一つは商品の支払いに関する手続きなど事務的な処理で対応可能なもの。これはテレマーケティング会社への業務委託でも十分だ。
しかし、もう一つの顧客からの商品に関する問い合わせ、クレームなどの細かなニーズへの受け答えの領域はアウトソースしてはいけない。むしろ、なるべく製造部門の現場に近い立場の人が対応するのが理想だ。
そこで交わされる顧客からのクレームや要望の生の声は、小売業者のところで滞留していた貴重な消費者の生の声でもあり、調査会社や広告代理店への丸投げではなかなか入手できない情報なのだ。
そうした仕組みで顧客から直に仕入れた情報を効果的に活用し、まずはモニター用として直営店などで売ってみる。その中から例えば60%以上の売れ行きのものを厳選した後に量販店での本格販売に移行すればよい。
シニア顧客の基本ニーズは「不(不安・不満・不便))」の解消だ。だが、そうした顧客の不は、顧客と直接接しないとなかなか聞こえてこないものだ。
家電製品ばかりを売るコンビニがあってもいい
メーカーの顧客接点の視点が問われている一方で、小売業ではナショナルブランド(メーカー製品)以外のプライベートブランド商品が売り場で一定のシェアを占め始めている。いわば小売業者のメーカー化ともいえる現象でもあり、ますます消費者の既存メーカー離れが危惧されそうな流れにある。
小売り業者がプライベートブランドでメーカー化しているように、メーカーも小売りの発想を持つべきだ。小売り化しないから、売れない商品を量産し、在庫調整ばかりやっている。そうではなく、メーカーも、思い切って不採算で身売り先を求めているスーパーやコンビニを買収する。それぐらいの発想があってもよい。
今の時代に求められているのは、例えば家電メーカーが同業のソニーの真似をする、あるいは東芝の真似をするのではなく、イオンやセブン&アイの真似をする。そうした発想だ。家電製品ばかりを売るコンビニがあってもいい。そうした新しい業態を作るという発想こそが、メーカーに求められている。