高齢者住宅新聞連載 村田裕之の「シニアビジネス相談室」第83回
日本ではシニア向けを謳った店舗・モールで成功した事例はほとんどない
先日、中国の企業経営者を対象に講演しました。シニア向けの商品事例を色々と紹介した後に、「シニア向け商品・サービスをひとまとめにした店舗は受けるのではないか?日本にそうした事例はないか?」という質問を受けました。
質問者の意図は、シニア層が必要とする商品・サービスがひとまとめにあれば、利便性が上がり、集客力も売り上げも上がるのではないか、ということでした。
結論から言うと、日本ではこうした店舗・モールで成功した事例はほとんどありません。
かつて、大手スーパーのイオンがシニアシフト戦略を推進していた頃、都内にあるイオン葛西店をそうしたモデル店舗にしようとしましたが、かなり苦戦しました。
「これがシニアに売れるはず」という思い込みだけでは売れない
主な苦戦理由は、「こういう商品・サービスがシニア層に売れるのでは?」という仮説で店舗づくりを行っていたからです。
特に当時流行していた「コト消費」に重点を置き過ぎ、カルチャーなどの販売効率の低いコンテンツが大半となり、大量の「モノ消費」に慣れていたスーパーと言う業態に合わなかったためです。
一方、京王百貨店新宿店や松坂屋上野店などは、一時期シニア向け対応にかなり注力していました。速度が極端に遅いエスカレーターを導入したり、休憩用の椅子をあちこちに置いたりしていましたが、今はなくなりました。
「おばあちゃんの原宿」と言われて久しい東京・巣鴨の商店街は、今でも高齢者が客層の中心です。しかし、商店街の雰囲気はここ20年あまり進化しておらず、一度行けば十分と言う感じです。
「シニア向け」という意図が強すぎると、客足が遠のく
これらの事例に見られる共通点として、「シニア向け商品」を前面に打ち出した店舗やモールは「売り手の企み」が見透かされやすいことです。
また、ジジ臭い・ババ臭い雰囲気になりやすい傾向があります。この結果、ターゲット客であるシニア自身が行きたいと思うような場所にならないのです。
日本橋にある三越本店や髙島屋などは、昔からシニア層の来店割合が高いですが、「シニア向け」などと謳うことは決してありません。