高齢者住宅新聞連載 村田裕之の「シニアビジネス相談室」第105回
日常生活に入り込みつつある生成AI
現役世代では生成AIが仕事や日常生活にかなり入り込んできました。ところが、退職者や専業主婦層など、特に60代以上の女性では不安感から利用割合は少なくなっています。
こうした背景から、シニア層を対象にした生成AI講座が徐々に増えてきました。YouTubeによる無料の動画から、有料の対面講座までいろいろと登場しています。
一般に生成AIの課題として、(1)著作権・知的財産権の侵害、(2)誤情報・フェイクコンテンツの生成、(3)雇用の減少、(4)倫理的問題と責任の所在が挙げられます。
一方、こうした課題以外に私が懸念するのは、生成AI利用による「認知機能の低下」です。理由は、生成AI利用時の脳の使い方が「スマホによる言葉調べ」の場合と似ているからです。
生成AI利用による認知機能低下の「落とし穴」
知らない言葉をスマホで調べている時の脳の前頭前野の状態は、何もしていない時の状態とほぼ同じであることが東北大学加齢医学研究所の研究で明らかになっています。脳が持つ記憶という機能を、インターネットに「アウトソーシング」しているためです。
Chat GPT やGeminiなどの生成AIを使用する時の、「プロンプト(質問や指示の文章)」を入力して回答を得るという過程は、「スマホによる言葉調べ」の場合とほぼ同じです。
つまり、自身の脳による思考や判断といった認知プロセスを、ネットを通じて生成AIに「アウトソーシング」しているのです。
課題に対して、自分なりに思考を重ねて出した回答に対して、その内容の吟味・検証のために生成AIを使うのは問題ありません。
ところが、自分で考える努力をせず、いきなり答えを求めるために生成AIを使うのは、単なる脳活動のアウトソーシングです。これを毎日、長時間行うと前頭前野がほとんど使われず、認知機能の低下につながる可能性があります。
ノルウェーでは小学校でのAI使用を禁止すると発表
ノルウェー政府は6月19日、小学校でのAI使用をほぼ禁止すると発表しました。学校で生成AIを無批判に使用すると、学習の「重要な段階」を飛ばしてしまうリスクが高まるためとのことです。
脳機能が発達・形成される20歳までの時期に、思考する段階をAIにアウトソースするスタイルが身についてしまうことの危険性を政府レベルで認識し、いち早く修正アクションを取っているのは見事です。
ノルウェーの話は小学生を対象にした話ですが、大人や高齢者にとっても他人事ではありません。子供にとって弊害があるものは、大人や高齢者に対しても弊害はあります。
シニア向け生成AI講座は、その方法によって「認知症促進講座」になりかねないことを認識すべきでしょう。生成AIという道具もハサミ同様、使いようなのです。



