脳の見える化で認知症予防に有用な生活習慣がわかる

脳の前頭前野の働き方の比較 ビジネス切り口別
脳の前頭前野の働き方の比較

シルバー産業新聞 連載「半歩先の団塊・シニアビジネス」第208回 

認知症は前頭前野の機能が低下した状態

筆者らが06年より提唱している「スマート・エイジング」の必要条件の一つが「脳を使う習慣」だ。特に大脳の前頭葉にある「前頭前野(ぜんとうぜんや)」を使う習慣が重要だ。

この領域は脳の司令塔と呼ばれ、脳の他の領域を制御する最も高次な中枢だ。思考する、行動や感情を制御する、コミュニケーションする、意思決定する、意識を集中する、など多くの重要な機能を担っている。

前頭前野が何らかの理由で働かず、認知機能が低下した状態が認知症だ。図1は、脳の見える化装置の一種であるNIRS(近赤外線分光装置)で脳の活動状態を撮影したものだ。

健康な人は前頭前野が活発に働いている(赤色部分)が、認知症の人は前頭前野が働いていない(青色部分)。

長時間のテレビ視聴は前頭前野の機能を低下させる

私たちは、こうした装置を使わない限り、日々の生活で自分の脳をどう使っているのかを見ることはできない。このため、自分では脳をかなり使っているつもりでも、実際にはあまり使われていないということがある。

例えば、難しい計算をしている時には、自分ではさぞ脳を使っているように思いがちだ。だが、MRI(核磁気共鳴画像装置)で見ると、脳のごく一部が使われているのみで、前頭前野は全く使われていないことがわかる(図2)。

テレビを観ている時には、画像を認識する後頭葉と音を認識する側頭葉は使われているが、前頭前野は全く使われていない(図3)。実はこの場合、前頭前野には抑制がかかり、活性化しない状態であることもわかっている。

一日に数時間程度であれば問題はないが、毎日長時間この状態が続くと、認知症予備軍へまっしぐらとなる。

介護施設などで高齢の入居者がテレビをずっと観ている風景をよく見かけるが、こうした生活習慣は実は認知症加速器になっていることに注意が必要だ。

音読、手書き、簡単な計算、料理は脳活動を活性化する

一方、音読、手書き、簡単な計算を素早く解くことが前頭前野を含む脳の多くの領域を活性化することがわかっている。この原理に基づいて認知機能を維持・改善するために開発されたのが、いわゆる「脳トレ」だ。

また、料理をする時には前頭前野を含む脳の多くの領域が活性化し、一人よりも二人でする方が、より前頭前野を活性化することも明らかになっている。

老人ホームに入居すると料理をしなくなる人が多いが、認知症予防の観点からは料理を続ける方がよいことがわかる。

脳の可視化で認知症予防につながる生活習慣を知る

ここまで前頭前野を活性化する生活習慣の例をいくつか挙げてきた。従来、これらの検証には実験室でMRIやNIRSを用いて行われた。しかし、これらの装置は大がかりで、かつ、被験者の身体が拘束されるため、そうした制約条件下で可能な検証しかできなかった。

だが、近年NIRSの小型化・携帯化が進み、実験室ではなく、日常の生活空間での計測が可能になってきた。筆者と東北大学発ベンチャーの㈱NeUは、企業からの依頼で数多くの脳の可視化計測を行っている。

例えば㈱イーラルと共同で美容室のヘッドスパ施術で認知機能の一種である「集中力」が向上すること(連載186回)、㈱吉野家と共同でパン食よりも米のご飯とおかず主体の朝定食の方が脳活動を活性化することを明らかにしている。

脳の見える化技術の発展により、日常生活で使用する企業の商品・サービスを脳活動の観点から科学的に評価できる時代となった。こうした評価により当該商品・サービスが「認知症予防につながる」という価値を向上することになる。

「リラックス」を可視化して商品の信頼を高める
東北大学ナレッジキャストとNeUとで美容室のヘッドキュア施術でどれだけリラックスできるかを心拍変動と脳活動の左右差から実際に定量的にストレス状態を評価し科学的に検証した。
朝食習慣とその質はウェルビーイングにどう影響するか~脳活動と自律神経活動のクロスオーバー試験報告 | 村田裕之の団塊・シニアビジネス・シニア市場・高齢社会の未来が学べるブログ
朝食の「質の違い」による健康への影響を生体計測により調べた。試験食群(吉野家で販売中の和定食3種類)と対象食群(菓子パン食3種類)の2群に分け、全8週間に渡る非盲検化ランダム化クロスオーバー試験を実施...
この記事を書いた人
村田 裕之

村田アソシエイツ株式会社代表取締役、東北大学加齢医学研究所スマート・エイジングセンター特任教授

日本の中高年向け事業開発プロデューサー、起業家、社会学者。専門は中高年を対象とした事業開発と消費行動分析、日本と諸外国の高齢社会研究、スマート・エイジング論など。

1999年に日本で初めて「アクティブシニア市場」の重要性を指摘し、情報武装した高齢者「スマートシニア」の出現を予言した。2004年に「シニアビジネス」という言葉を初めて公に提唱し、女性専用フィットネス「カーブス」の日本への紹介、NTTドコモ「らくらくホン」の商品開発支援、関西大学とのカレッジリンク型シニア住宅の創成など、950以上の企業の事業開発に携わっている。日本におけるシニアビジネス分野の第一人者として知られている。

2006年に東北大学からの依頼でスマート・エイジングのコンセプトを提唱し、2009年10月東北大学スマート・エイジング国際共同研究センターの設立に参画。スマート・エイジング・カレッジを11年間主宰し、市民の健康リテラシーの向上とのべ406社との産学連携を推進してきた。

シンガポールに拠点を置く Asia Pacific Eldercare Innovation Awardsにより2018年5月に「Global Ageing Influencers」に、2024年5月に「Super Ageing Japan Outstanding Entrepreneur(スーパー・エイジング・ジャパン卓越起業家)」に選ばれた。

村田 裕之をフォローする
シニアビジネス事例ビジネス切り口別

本記事の内容を貴社事業に役立てるサポートはこちら

  • シニアビジネスコンサルティング
  • プライベートセミナー
シェアする
村田アソシエイツ | アクティブシニア市場を開拓したシニアビジネスの先駆者
タイトルとURLをコピーしました