2023年4月28日 日経MJ連載 納得!シニア消費
会員の9割が50歳以上、ほとんど女性が楽しむ押し花アート
「押し花アート」が中高年女性に人気だ。これは草花を自然の色のままに乾燥させ、長期間色あせない技術を用いてクラフトワークなどの作品にするものだ。
押し花アートのインストラクターを認定する世界押花芸術協会には約4千人のインストラクターが会員として登録している。会員の年齢構成は70代32%、60代29%、50代19%、80代以上11%。50歳以上が91%で、ほとんどが女性だ。何がシニア女性を惹きつけているのか。
押し花アートの魅力1:生花を色褪せず美しい色のまま残せること
理由の第一は、生花を色褪せず美しい色のまま残せることだ。神奈川県の木村良子さん(仮名、76歳)は「もともと花が好きで、庭に咲く美しい姿を残せないかと思っていた時に押し花アートを知った。押し花作品を観た友人が『まるで本物の花みたい』と驚くのが楽しい。」と語る。
押し花の一般的なイメージは「押しつぶした枯れた花」ではないだろうか。このイメージを180度変えた点が大きな魅力になっている。押し花アートの提唱者で協会会長の杉野宣雄氏によれば「退色しないための加工法など多くの独自技術を用いている」とのことだ。
押し花アートの魅力2:初心者でも手軽に美しく作品がつくれること
理由の第二は、初心者でも手軽に美しく作品がつくれること。栃木県の田中清美さん(仮名、68歳)は「油絵や水彩画などの絵が描けなくても、押し花なら並べるだけで絵になるところがよい。」と言う。
一般に芸術(アート)と言うと何となく敷居が高くなりがちだ。これに対して押し花アートは、自宅の庭に咲く花を用いてインテリア装飾品をつくるなど、身近な素材で手軽に取り組める点がシニア女性に受けていると言える。
押し花アートの魅力3:同好の会員同士の交流機会
初心者でも取り組みやすい反面、始めると作品制作スキルを向上したくなるのが人の常だ。協会では定期的に全国各地で展示会やワークショップを開催して会員のスキルアップを支援している。
実はこうした場での会員同士の交流機会も魅力になっている。埼玉県の小林春子さん(仮名、69歳)は「仲間との交流は本当に楽しい。花が好きな人と話をすると共感できることが多い。」と話す。
先日東京・立川市で開催された展示会では全国中から同好の会員が大勢集まり、楽しそうに交流していたのが印象的だ。
約12万人の「押し花アートコミュニティ」が作るビジネス生態系
インストラクターである会員一人当たり平均30名の生徒を持つため、現時点で約12万人が活動に取り組んでいることになる。
この「押し花アートコミュニティ」の潜在力に注目し、花き小売業者、旅行会社、通販会社、不動産会社、カルチャーセンターなど多くの異業種企業からコラボの引き合いが来ている。
押し花アートというコト消費を中心に、他のモノ・コト消費の担い手が集結する「押し花アートビジネス生態系」が形成されつつあり、新たなシニア市場創出モデルとして注目だ。
認知機能の改善効果も期待される押し花アート
一方、押し花アートの活動は、他者とのコミュニケーションを伴う知的文化活動だ。実はこうした活動は認知機能の改善など脳の健康維持に有用であることが、東北大学の研究でわかっている。
厚労省のデータで75歳を過ぎると認知症有病率が急増することが知られている。好きな押し花に取り組むことで、楽しみながら脳の健康も維持できるなら一挙両得で、さらに活動のすそ野が広がりやすいと言えよう。
成功するシニアビジネスの教科書