高齢者住宅新聞連載 村田裕之の「シニアビジネス相談室」第86回
50代以上の「ミドル・シニア層特化型」スーパーの登場
本年9月6日、埼玉県久喜市に「ヤオコー久喜吉羽店」が開店しました。ヤオコーは埼玉県を中心に関東に190店舗展開するスーパーマーケットの雄です。
久喜吉羽店の最大の特徴は50代以上の「ミドル・シニア層特化型店舗」と位置づけていることです。
本連載第83回で述べたとおり、日本では「シニア向けを謳った店舗・モール」で成功した事例はほとんどありません。この点で、今回の試みが上手くいくのかどうかに注目です。
12年前のイオンの試みとの違いは何か
シニア向け店舗で苦戦した12年前のイオン葛西店の試みとの違いは何でしょうか。一つ目は、ヤオコーは食品スーパーがゆえに「食品に特化」していることです。
一方、当時のイオン葛西店は、いわゆるGMS(総合スーパー)で、食料品や日用品のみならず、衣料品や家電、家具等、日常生活で使う様々な商品を扱っていました。(現在もGMSのままです)
店舗全体をシニア向け対応にするために、多くの新たな作業が必要でした。その結果、仮説に基づく売り場作りが増え、改善が必要な場合も対応が中途半端となり、多くの売り場で売上が伸び悩み、中断せざるを得なくなりました。
二つ目は、世代特有の嗜好性を考慮した商品への注力です。川野澄人社長によれば「ディープフライのようなベーシックな揚げ物、コッペパンや焼きそばパンなど、シニア層に支持される昔ながらの定番商品に磨きをかけた」とのことです。
ノスタルジー消費を狙った商品ラインナップ
イオンの時は、一人用刺身、一個から買える果物、小口総菜など単身世帯をターゲットにした商品が目立ちました。一方、ヤオコーの商品戦略は、いわゆる「ノスタルジー消費」を狙ったものです。
これは主に40代以降に現れる消費形態で、50代、60代でも見られます。特定の世代が20歳頃までに共通に体験する文化体験(世代原体験)が影響を現れる消費行動です。
特徴は「新しいもの」より「昔なじんだ安心なもの」を求める傾向が強いことです。これに触れると昔の記憶と情動が一緒に呼び起こされ、若くて元気で幸せだった頃の自分を追体験できます。
ターゲット層の子供の頃の食文化を追体験する商品に注力しているのが久喜吉羽店のカギです。