シルバー産業新聞 連載「半歩先の団塊・シニアビジネス」第209回
ルート機能とは何か
スマホゲームのポケモンGOは2016年7月に登場してから8年が経過した。大半のスマホゲームが登場後2年以内に消えていく中で、未だに多くの人が続けているのが驚異的だ。
このゲームの人気の理由は本連載第141号「ポケモンGOが中高年に根強い人気の7つの理由」で述べたとおりだ。
だが、その際にはまだ無かった「ルート機能」が導入されてから中高年の利用頻度がさらに増えているようだ。
ルート機能とは、ゲーム上で決められたルートを実際に歩くと様々な報酬(ゲーム中で使用する道具)がもらえる仕組みだ。1年ほど前に導入されたものだ。
ルート機能では、自分の好きな道筋を「ルート」として作成できる。一つのルートは500メートル以上、2キロ以下と決まっている。
所定の手順で作成後、申請して承認後、登録される。ほとんどの場合、承認されているようだ。
ルート機能の何が中高年に受けているのか
コロナ禍以降、健康志向の強まりで、朝夕にウォーキングをする中高年層が増えた。
実はこれらの人たちは、自宅周辺をウォーキングすることが多い。しかも、その道筋は決まっている場合がほとんどだ。
そこで、いつもウォーキングする道筋を「ルート」に登録してしまえば、ルート機能を使いながらウォーキングすれば報酬がもらえるようになる。
このように、他人の作成したルートだけでなく、自分が作成したルートを歩いても報酬がもらえるのがミソだ
ポケモンGOプレーヤーであれば有酸素運動による健康増進効果との一石二鳥となり大変都合がよい。
目的行動と習慣行動
注目すべきは、ルート機能が定期的な運動という「習慣行動」の継続動機を高める仕組みになっている点だ。
私たちが取る行動には、目的行動と習慣行動がある。目的行動は、ある目的を達成するのにそれによる恩恵と手間・時間などのコストから価値判断によって選択する行動だ。
目的行動の繰り返しによって、その価値は私たちの脳に学習され、記憶されていく。価値が記憶されると、やがてその行動を無意識的に選択するようになる。これが習慣行動だ。
では、どうすれば目的行動を習慣行動にできるのか。
ある目的行動を行うかどうかの判断の際、私たちは、①その行動による価値・恩恵がどの程度あるのかと、②その行動を取るための時間やコスト、心的エネルギーなどがどの程度必要かを天秤にかけ判断する。
したがって、①が大きく、②が小さいほど、その目的行動は実施されやすく、継続されやすくなる。
習慣行動の継続動機を高める仕組み
今回取り上げたルート機能は、①の観点では、ポケモンGOプレーヤーにとって大きな恩恵となっている。
ルートを一つ歩く毎に、プレーヤーレベルを上げるための経験値を2000XP(その日の初回には2000XPのボーナスが追加される)と、ポケモン強化に必要な「ほしのすな」を1000もらえる。
また、これ以外に何種類かの道具をもらえる。貴重な「ふしぎなアメ」「ふしぎなアメXL」をもらえることもある。
さらに、非常に強いポケモン「ジガルデ」を育成するための「ジガルデ・セル」という道具もルート歩行数回につき一個もらえる。これらの報酬は、プレーヤーにとって割の良いものだ。
一方、②の観点では、自分のウォーキングの道筋をルートに登録するだけなので、それほど手間がかからない。
筆者も毎日「朝活」で決まった道筋をウォーキングしていたので、ルート登録をしてみた。ルートに沿って歩くことによる運動量の変化はない。
だが、スタート地点とゴール地点が明確になり、道筋がスマホに表示されると、表示されない場合に比べて達成感が強まり、継続のモチベーションが上がるようだ。
健康志向の強い中高年向けのビジネスヒントになる仕組みと言えよう。