シニア向けカフェが苦戦する理由は?

ビジネス切り口別

高齢者住宅新聞連載 村田裕之の「シニアビジネス相談室」第8回

平場のラウンジにしてしまうと苦戦する

04年に上梓した拙著「シニアビジネス 多様性市場で成功する10の鉄則」「退職者のための第三の場所」の例として、シカゴにあるマザー・カフェ・プラスを取り上げました。

それ以降、多くの企業が、このマザー・カフェ・プラスを真似して「○○カフェ」や「××サロン」を立ち上げましたが、ことごとく苦戦しました。苦戦理由の1つは、シニア向けカフェを平場のラウンジにしてしまうことにあります。

平場のラウンジがダメなのは、広いスペースを使う割に、収益源が少ないからです。それ以上に重要な理由は、そもそも平場のラウンジには人が集いにくいからです。その本当の理由を脳科学の知見が教えてくれます。

空間づくりに重要な“脳科学の知見”

例えば、動物のマウスをその大きさに比べてかなり大きく広い箱の中に入れた時にどのような挙動をするか観察すると、マウスは始終落ち着くことなく、大きな箱の周辺部のみをぐるぐると回り続けます。

実は、こうした広い空間の真ん中では、マウスに限らず人間も含めた動物は恐怖や不快感を強く感じます。それは周りに隠れる場所がなく、敵から丸見えだからです。

自然界で生きる動物は常に敵との脅威にさらされるため、敵との脅威を敏感に感じ、防衛行動に移す本能を持っています。それを司っているのが、扁桃体と呼ばれる脳の一部位です。

恐怖や不快を感じた扁桃体は、防衛のための信号を出します。それが興奮性の神経伝達物質(アドレナリンなど)を多量に分泌させるため、落ち着かなくなるのです。

人は周りに囲いがないところにはなるべくいたくない。だから、平場のラウンジは居心地が悪いのです。

高齢者施設においても認知症の人は大部屋では落ち着かず、情緒不安定になる例をよく見かけますが、これも同じ理由です。

この記事を書いた人
村田 裕之

村田アソシエイツ株式会社代表取締役、東北大学加齢医学研究所スマート・エイジングセンター特任教授

日本の中高年向け事業開発プロデューサー、起業家、社会学者。専門は中高年を対象とした事業開発と消費行動分析、日本と諸外国の高齢社会研究、スマート・エイジング論など。

1999年に日本で初めて「アクティブシニア市場」の重要性を指摘し、情報武装した高齢者「スマートシニア」の出現を予言した。2004年に「シニアビジネス」という言葉を初めて公に提唱し、女性専用フィットネス「カーブス」の日本への紹介、NTTドコモ「らくらくホン」の商品開発支援、関西大学とのカレッジリンク型シニア住宅の創成など、950以上の企業の事業開発に携わっている。日本におけるシニアビジネス分野の第一人者として知られている。

2006年に東北大学からの依頼でスマート・エイジングのコンセプトを提唱し、2009年10月東北大学スマート・エイジング国際共同研究センターの設立に参画。スマート・エイジング・カレッジを11年間主宰し、市民の健康リテラシーの向上とのべ406社との産学連携を推進してきた。

シンガポールに拠点を置く Asia Pacific Eldercare Innovation Awardsにより2018年5月に「Global Ageing Influencers」に、2024年5月に「Super Ageing Japan Outstanding Entrepreneur(スーパー・エイジング・ジャパン卓越起業家)」に選ばれた。

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