吉野家の「トク牛」飲料以外のヒット商品がごく少ないトクホで異彩を放つ

吉野家のトクホ「トク牛 サラシアプレミアム」 ビジネス切り口別
吉野家のトクホ「トク牛 サラシアプレミアム」

シルバー産業新聞 連載「半歩先の団塊・シニアビジネス」第207回 

トクホの77%は既に販売を終了している

機能性表示食品が社会的注目を浴びたことで、特定保健用食品(トクホ)への関心も高まっている。

トクホは、健康に役立つ効果が科学的に証明された食品だ。有効性・安全性を消費者庁が個別に審査して許可する。有効性の証明として、査読付きの研究雑誌に掲載されることが条件で、機能性表示食品に比べてかなり厳しい

一方、トクホとして許可された1038件のうち、22年度販売実績があるものは239件で、割合では23%しかない。つまり、トクホの77%は既に販売を終了している。

機能性表示食品の場合、同様の割合が59%(24年2月23日現在)なので、トクホの状況はさらに厳しいと言える。

飲料以外のトクホのヒット商品は極めて少数

実は販売実績があるトクホのうち、ヒット食品はほとんどが飲料だ。飲料以外では、ヨーグルト、魚肉ソーセージ、キシリトールガムなど、極めて少数だ。しかも後者は、近年の消費者のガム離れで販売数量は年々減少している。

こうした状況下で、吉野家のトクホ、冷凍食品の牛丼の具「トク牛 サラシアプレミアム」が異彩を放っている。22年7月発売以来の累計出荷数が本年6月現在で13万食を突破した。

利用者の年齢層は50歳以上が半数以上で、60代前半が最も多いのがミソだ。売れている理由は主に次の3つだ。

食後の血糖値上昇を緩やかにすることが科学的に証明されている

理由の1つ目は、食後の血糖値上昇を緩やかにすることが科学的に証明されている点。

大阪府の木村知美さん(仮名、60歳)は「血糖値が高めで、日常生活で糖質を減らしている。若い頃によく食べた牛丼はもう無理、とあきらめていたがトクホの新商品があると聞いて、食べてみたら本当に懐かしくて嬉しかった」と言う。

一般に牛丼に対しては、おいしいが「肉の脂身や糖質が多い食べ物」のイメージを持つ人が少なくない。このため、糖尿病などで血糖値管理が必要になると避けられる傾向があった。

こうした背景から、同社では糖の吸収を減らし、食後の血糖値上昇を緩やかにする「サラシノール」という成分を牛丼の具に配合した。有効性や安全性が科学的に証明済で、血糖値が高めの人でも安心して食べられる点が受けている。

「健康に良い」食品はまずいものが多いが、トク牛は「おいしい」

理由の2つ目は、「健康に良い」とうたう食品は、一般にまずいものが多いが、トク牛は「おいしい」点。

広島県の佐々木健司さん(仮名、69歳)は「血糖値が気になり購入した。体に良い食品は得てして味は期待できないのが今までの常識だったが、見事に破られた。こういうのを待っていた」と語る。

おいしさの秘訣はサラシノールと牛丼のタレの相性にある。同社によれば、サラシノールをタレに加えるとコクが出て、牛丼の味に深みが出るとのこと。サラシノールの赤色が牛肉やタレの色に重なり、味が濃い目に見える点もミソだ。

開発段階では、牛丼一筋に携わってきたベテランの「味利き」社員が何度も試食を繰り返して、味を決めたとのこと。実際に食べてみると、老舗の牛丼チェーンならではの味へのこだわりが感じられる。

冷凍保存でき、レンジで温めれば店の味が手軽に楽しめる

3つ目の理由は、冷凍保存でき、レンジで数分温めれば、店と同等の味がいつでも手軽に楽しめる点。

岡山県の佐藤紀夫さん(仮名、63歳)は「自営業なので忙しく、メニューに困ったら、レンジでチンして食べられるのがよい。スーパーで売っているレトルト程度の味を想像していたが、それよりはるかにおいしい」と言う。

「早い、うまい、体によい」が求められる時代

かつて吉野家が急成長を遂げた70年代のキャッチコピーは「早い、うまい、安い」だった。それから半世紀が経ち、「早い、うまい、体によい」が求められるようになった。

人口のほぼ半数が50歳以上の超高齢社会となったことで、食に対する健康志向が一段と強まったからだ。

トクホは許可基準の厳しさから食品の種類が少なかった。だが、有効性・安全性は証明済なので、おいしさや手軽さなどを磨けば、必要とする消費者は少なくないだろう。

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