高齢者住宅新聞連載 村田裕之の「シニアビジネス相談室」第84回
顧客ニーズが直接見える仕組みを「自前」で持つ方がはるかによい
シニア市場に進出するために何から始めたらいいのか—こんな質問を時々受けます。私の答えは、顧客ニーズが見える仕組みを「自前で持つ」ことです。
一般に大企業がシニア市場への足がかりとして最初に行うのが、調査会社にアンケートやグループインタビューなどの市場調査を依頼することです。しかし、私が見てきた限り、そうした調査結果の90%は役に立っていません。
その理由は、調査会社の調査能力が欠如しているからではありません。(もちろん、そういう場合もありますが)むしろ、調査を依頼する企業側に問題が多いのです。
それは、調査を依頼する企業が、シニア市場でどんな商品やサービスを事業化し、どう売っていくのか、といった戦略仮説を持っていないことです。
とりあえず市場の潜在ニーズを調べてみよう、程度の浅薄な問題意識で調査を依頼するため、得られる結果も浅薄で、役に立たないことが多いのです。
その程度の市場調査に無駄金を投じるくらいなら、自社で販売した商品・サービスがエンドユーザーの間でどんな評判になっているのかを自社で直接知ることのできる仕組みにお金をかけるべきです。
コールセンターを自前で持ち、顧客の潜在ニーズを直接感じよ
顧客ニーズを知るうえで特に効果的なのは、コールセンターを持つことです。
しかし、こう言うと「コールセンターは人手がかかり、コスパが悪い。ホームページやSNSを充実すればよいのではないか」と思う人も多いでしょう。
実際、オンライン旅行代理店業界では、じゃらん、楽天トラベルなどの大手のほとんどがコスト削減のためにコールセンターを廃止しました。
ところが、シニア層をターゲット客にする株式会社ゆこゆこが運営する「ゆこゆこネット」では、競合他社と異なり、全国4か所にコールセンターを持ち、最大250ブースで1日最大7200件対応しています。
年輩の利用者はネットでの検索閲覧はできても、宿泊施設の細かな状況を確認したい人やネット予約に不安を感じる人がまだ多いためです。
電話による良い意味での「お節介」も喜ばれます。例えば、宿泊先の部屋から食堂までの距離や大浴場までの階段数まで積極的に伝えてくれます。老舗の旅館では階段が長いこともよくあり、シニアにとってかなりの負担となるからです。
このように電話できめ細かく相談できることで、顧客のサービス提供者に対する「安心感」が強まります。すると、サービス提供者は顧客の生の声や要望を聴く機会が増え、潜在ニーズが見えやすくなるのです。