シニアの消費は「年齢」ではなくシニア特有の「変化」で決まる

ビジネス切り口別
シニアの消費行動に影響を及ぼす5つの変化

不動産経済Focus & Research 知っていると便利 シニアビジネスの極意 

「加齢による身体の変化」と消費行動の特徴は?

シニア市場をどう攻略するか、という議論が企業でなされる時、必ず出るのがシニア市場を年齢によってセグメント分けするやり方だ。

しかし、こうした「年齢によるセグメント分け」には注意が必要だ。なぜなら、私たちがモノやサービスを買うのは「何かの状態が変化した時」であり、必ずしも「ターゲット顧客の年齢」では決まらないからだ。

例えば、私たちの身体は一般に加齢とともに変化し、中高年期には衰えていく。老眼、体力の衰え、皮膚の衰え、体型の変化、更年期障害、肩やひざの痛みなどの変化だ。これらを実感すると対処や予防のための消費が生まれる。

このような変化に対応した商品・サービスには、老眼鏡、ルーペ、白髪染め、補聴器、ウォーキングシューズ、トレーニングウエア、補整下着、各種サプリメント、スポーツジムなど数多くある。

しかし、こうした商品・サービスは、誰にでも同程度に必要とされるわけではない。リビングくらしHOW研究所の調査によれば、50歳代、60歳代の女性に「最近、体調や体型の変化で気になることはありませんか」と尋ねると両年代とも「体力の衰え」を一番目に挙げる。

ところが、50歳代が肌の衰えや更年期障害を二番目に挙げるのに対して、60歳代は関節の痛みを二番目に挙げる。

これに関連して、「美容や体型維持のために定期的にしていることはありますか?」と尋ねると、50歳代では「サプリメント」の服用が目立つのに対して、60歳代ではウォーキングやスポーツジムなどでの「運動」が目立つ

50歳代と60歳代の対処策の差は、時間的余裕の有無に起因する。仕事や家事、子育てで忙しい50歳代と、そうした作業から解放された60歳代との時間的余裕の違いが消費行動の違いに表れている。

このような消費行動の差は、実は年齢ではなく、「加齢による身体の変化」と、「本人のライフステージの変化」によって生じていることに注意が必要だ。

「本人のライフステージの変化」と消費行動の特徴は?

「本人のライフステージの変化」も消費行動に影響を及ぼす。男性にとって一番大きいライフステージの変化のひとつは退職だ。電通の調査によれば、退職をきっかけとした具体的な行動で一番多いのが「夫婦での旅行」だ。

コロナ禍以前は、退職したらおよそ半数の人が旅行に出かけていた。海外旅行と国内旅行とが半分ずつだった。旅行代理店が販売するパック旅行への年間支出を見ると、一番多いのは60歳代、次が70歳代だった。

旅行の場合、退職後半年以内に「退職記念旅行」に出かけ、その後も折に触れて何度も出かけるパターンが多かった。現在のような極端な円安になってからは費用が高額になったため海外旅行は控える傾向が強くなっており、国内旅行の割合が増えている。

旅行の次は「散歩・ジョギング・ラジオ体操など」「家のリフォーム」「保険の加入・見直し」「株やファンドの購入」が上位にくる。

退職直後の消費の共通点は、健康維持、老後準備、趣味・自分探しのための消費だ。これらには比較的高額商品が多いことも共通点だ。

フルタイムで仕事をしていた人は、退職して仕事をやめると収入は減るが、自由時間は大幅に増える。すると、この増えた自由時間を活用するための商品・サービスに目が行くようになる。また、収入が減った分を補填するため、安全かつ有利な投資対象にも興味を持つようになる。

ダウンサイジング消費は退職者のほとんどに起こる

退職した人によく売れるクルマは、軽自動車とハイブリッド車だ。これらが売れる理由は、「ダウンサイジング」、つまり、生活規模を小さくして支出を減らすためだ。

年金生活で毎月の出費はなるべく減らしたいので、ガソリン消費の少ない車がいい。子供は独立して夫婦二人なので小型車でいい、という具合だ。

ダウンサイジング消費の他の例としては、スマホを格安スマホへ買い替える、電気代・電話代をセット割引へ変える、日経新聞を産経新聞に変える(あるいは新聞購読をやめる)、郊外の一戸建てを都心のマンションへ買い替えるなどが見られる。こうした消費形態が退職後3カ月から半年くらいの間にかなりの頻度で見られる。

サラリーマンの場合、定年退職する人は60歳から65歳の間に退職する場合が多い。中には60歳以前に自主的に早期退職する人もいる。

また、勤務先の定年が65歳だとしても、勤務先の業績が傾いたり、本人の人事評価が今一つだったりで、早期退職を余儀なくされる人もいる。

一方で65歳を過ぎても退職せず会社にとどまる人も増えている。今後はますますこのパターンが増えるだろう。

このように退職年齢が多様化しているため、従来のように特定の年齢で退職するとは限らなくなる。つまり、退職という本人のライフステージの変化も年齢だけでなく、本人の様々な都合による「何らかの変化」で起きると認識すべきだ。

タイトルとURLをコピーしました