生成AI利用の知られざる“落とし穴”

ChatGPTで生成した画像の例 国内動向
ChatGPTで生成した画像の例

シルバー産業新聞 連載「半歩先の団塊・シニアビジネス」第224回 

70代は4割超が「利用経験あり」

生成AI(人工知能)」がシニアの生活やビジネスに浸透しつつある。朝日新聞Reライフプロジェクトが今年5月に実施したアンケートでは、60代の5割前後、70代の4割超、80歳以上も3割超が利用した経験があると回答している。

生成AIのイメージについては、生成AIを利用した経験がある人は「業務効率・生産性を高める」など、ポジティブなイメージを持つ傾向が見えた。

一方で、利用した経験のない人は、「なんとなく怖い」「不安である」などネガティブな印象を持つ人が多いようだ。

65歳以上は「健康管理のサポート」に期待感

生成AIに期待することについて、各年代ともに最も回答が多かったのは「生活の利便性向上」、次いで「学習や自己啓発の支援」だった。

年代別にみると、65歳以上は「健康管理のサポート」への期待が高い傾向が見られた。ただし、ここで言う「健康管理のサポート」が具体的にどのようなサポートなのかは不明だ。

おそらく生成AIの回答生成能力に期待し、自分の健康データを入力することで、健康改善・予防のための最適な方法を知らせてくれるようなサービスを期待しているものと思われる。

一方、生成AIへの不安や懸念については、「セキュリティリスク」「精度や信頼性の低さ」「プライバシーの侵害」の順で多くなっている。年代が上がると「操作が難しい」という回答も目立った。

よく言われる生成AIの「4つの課題

一般に生成AIの課題として次の4つが挙げられている。

(1)著作権・知的財産権の侵害

AIの学習データに含まれる既存の著作物と類似したコンテンツが生成され、権利侵害につながるリスクがある。これは特に漫画、アニメ、小説などのクリエイターにとって大きな懸念事項となっている。

(2)誤情報・フェイクコンテンツの生成

事実とは異なる情報(ハルシネーション)を生成したり、悪意のあるディープフェイクなどの偽コンテンツ作成に悪用されたりする可能性がある。

これは既に著名人のフェイク画像によるSNS詐欺で多用されている。最近ではフィッシング詐欺画面に誘導するためのメール文章作成に多く用いられている。

(3)雇用の減少

AIによる自動化が進むことで、特定の職種や単純作業の雇用が減少する懸念がある。AI利用が進む米国では、既に「AI失業」が社会問題化している。

(4)倫理的問題と責任の所在

AIの判断による結果について、誰が責任を負うのか(開発者、利用者、AI自身)という責任の所在が不明確な点も課題だ。

ほとんど指摘されていない生成AI利用の「落とし穴」

こうした課題以外に私が懸念するのは、生成AI利用による「認知機能の低下」だ。理由は、生成AI利用時の脳の使い方が、連載第212回で触れた「スマホによる言葉調べ」の場合と似ているからだ。

知らない言葉をスマホで調べているときの脳の前頭前野の活動は、何もしていないときの活動とほとんど変わらないことが東北大学の研究でわかっている。脳が持つ記憶という機能を、インターネットに「アウトソーシング」しているためだ。

Chat GPT やGeminiなどの生成AIを使用するときの、「プロンプト(質問や指示の文章)」を入力して回答を得るという過程も、「スマホによる言葉調べ」の場合とほぼ同じだ。

つまり、自身の脳による思考や判断といった認知プロセスを、ネットを通じて生成AIに「アウトソーシング」しているのだ。

課題に対して、自分なりに思考を重ねて出した回答をもとに、その内容の吟味・検証のために生成AIを使うのは良いだろう。

だが、自分で思考する努力をせず、いきなり答えを求めるために生成AIを使うのは、単なる脳活動のアウトソーシングに過ぎない

これを毎日、長時間行うと前頭前野がほとんど使われず、認知機能の低下につながる可能性大だ。

「生成AI認知症」にならないようバランスの良い付き合い方が望まれる。

この記事を書いた人
村田 裕之

村田アソシエイツ株式会社代表取締役、東北大学加齢医学研究所スマート・エイジングセンター特任教授

日本の中高年向け事業開発プロデューサー、起業家、社会学者。専門は中高年を対象とした事業開発と消費行動分析、日本と諸外国の高齢社会研究、スマート・エイジング論など。

1999年に日本で初めて「アクティブシニア市場」の重要性を指摘し、情報武装した高齢者「スマートシニア」の出現を予言した。2004年に「シニアビジネス」という言葉を初めて公に提唱し、女性専用フィットネス「カーブス」の日本への紹介、NTTドコモ「らくらくホン」の商品開発支援、関西大学とのカレッジリンク型シニア住宅の創成など、950以上の企業の事業開発に携わっている。日本におけるシニアビジネス分野の第一人者として知られている。

2006年に東北大学からの依頼でスマート・エイジングのコンセプトを提唱し、2009年10月東北大学スマート・エイジング国際共同研究センターの設立に参画。スマート・エイジング・カレッジを11年間主宰し、市民の健康リテラシーの向上とのべ406社との産学連携を推進してきた。

シンガポールに拠点を置く Asia Pacific Eldercare Innovation Awardsにより2018年5月に「Global Ageing Influencers」に、2024年5月に「Super Ageing Japan Outstanding Entrepreneur(スーパー・エイジング・ジャパン卓越起業家)」に選ばれた。

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