調理、手芸、スマホでの言葉調べ 脳活動を活性化するのはどれ?

調理中の脳活動 多くのプロセスで脳が活発に活動 ビジネス切り口別
調理中の脳活動 多くのプロセスで脳が活発に活動

シルバー産業新聞 連載「半歩先の団塊・シニアビジネス」第212回 

前回に引き続き、今回も筆者が講演等でよく尋ねられる「生活行動と脳活動の活性化度合い」について解説したい。

調理を積極的に行うと作動記憶力を増す効果がある

大人を対象として、さまざまな調理を行っているときの大脳の活動をNIRS(近赤外光分析装置)で計測すると、ほとんどの調理の過程で左右両側半球の「背外側前頭前野」に強い活動が表れることがわかっている(写真)。

一方、果物や野菜の皮をむくときに、皮むき器を使うと背外側前頭前野はほとんど活動しない。だが、包丁を使って皮をむくと背外側前頭前野は強く活動する。

これらの結果は、手先の細かい運動と作業の「容易さ」の双方が影響したと考えられる。何も考えずにさっとできてしまう作業の場合、脳は働かないと考えられる。

認知症介護の現場では、認知症が進んでいくと調理がうまくできなくなり、結果として自分で食事の支度ができなくなることはよく知られている。調理ができなくなる主な理由は、調理の手順がわからなくなることだ。

作業手順を思い浮かべ、作業を行うには、背外側前頭前野の中核的機能である作動記憶という認知能力を必要とする。調理ができなくなるのは、作動記憶の機能低下と考えられる。

逆に調理を積極的に行うことは、作動記憶を積極的に使い、その力を増す効果があると考えられる。

老人ホームに入居すると調理をしなくなる人が多いが、認知症予防の観点からは、料理を続ける方がよい。

手芸は楽しみながら前頭前野を鍛える効果がある

従来、手芸のような手先を動かしたり、頭を使ったりする活動は、頭の体操や物忘れの防止に良いと考えられていた。だが、実際に脳をどの程度使っているのかはよくわかっていなかった

手芸は脳活動を活性化する
手芸は脳活動を活性化する生活習慣

手芸用品大手のユザワヤ商事の「脳トレ手芸シリーズ クロスステッチ刺繍キット」「同 編み物キット」は、東北大学とNeUが監修し、脳が働くことを検証して商品化したものだ。

NeUが開発した超小型NIRSで脳計測を行うと、これらの手芸に取り組む時に、前頭前野を中心に脳の色々な部位が活性化することが確認されている。

いわゆる脳トレで効果を上げるには、それなりの負荷を脳にかけなければならない。だが、高齢になるにつれ、この負荷を苦痛に感じて継続が困難な人が多い

そこで脳トレに取り組む代わりに、日常生活のなかで自分が好きなことに取り組むと、自然と脳が鍛えられる方が継続されやすいと考えられる。

年配の女性には刺繍や編み物などが好きな人も多い。好きな手芸に取り組むことで、楽しみながら脳の健康を維持できる。

スマホでの言葉調べは脳活動をどの程度活性化するか?

東北大学で学生を対象に、知らない言葉をスマホで調べているときと、紙の辞書で調べているときの脳活動を超小型NIRSで計測し、比較した。

言葉調べをする時の脳活動の比較
図1 言葉調べをする時の脳活動の比較

図1の縦軸が「脳の活動の変化」、横軸が「時間」だ。黒い線が「右の脳活動」、灰色の線が「左の脳活動」をそれぞれ表している。

これを見るとスマホで調べているときの前頭前野の活動は、何もしていないときの活動とほとんど変わらないことがわかる。

一方、紙の辞書で調べているときには、調べ始めから前頭前野の活動が急激に上がり、その後も絶えず活発に働き続けていることがわかる。

紙の辞書で単語を調べるには、頭文字のツメを探して辞書を開き、柱を見ながらページをめくり、単語を探さなくてはならない。指先を器用に操りながら文字を目で追う繊細な作業だ。

また、目的の単語だけではなく、前後にある単語が目に入り、気になって読むこともよくあるだろう。このように紙の辞書で単語を調べる行為には、前頭前野の活動を高める効果がある。

さらに、調べた単語の意味を思い出せるかを実験後に抜き打ちで学生にテストしたところ、紙の辞書で調べた単語は五つのうち二つ思い出せたのに対し、スマホで調べた単語は六つのうち一つも思い出せなかった

この結果の理由として、私たちの脳がスマホで検索した情報は覚える必要がない情報ととらえていることが考えられる脳が持つ記憶という機能を、インターネットに頼って「アウトソーシング」している状態といえる。

スマホでの言葉調べは便利だが、脳活動の活性化にはならないのだ。

この記事を書いた人
村田 裕之

村田アソシエイツ株式会社代表取締役、東北大学加齢医学研究所スマート・エイジングセンター特任教授

日本の中高年向け事業開発プロデューサー、起業家、社会学者。専門は中高年を対象とした事業開発と消費行動分析、日本と諸外国の高齢社会研究、スマート・エイジング論など。

1999年に日本で初めて「アクティブシニア市場」の重要性を指摘し、情報武装した高齢者「スマートシニア」の出現を予言した。2004年に「シニアビジネス」という言葉を初めて公に提唱し、女性専用フィットネス「カーブス」の日本への紹介、NTTドコモ「らくらくホン」の商品開発支援、関西大学とのカレッジリンク型シニア住宅の創成など、950以上の企業の事業開発に携わっている。日本におけるシニアビジネス分野の第一人者として知られている。

2006年に東北大学からの依頼でスマート・エイジングのコンセプトを提唱し、2009年10月東北大学スマート・エイジング国際共同研究センターの設立に参画。スマート・エイジング・カレッジを11年間主宰し、市民の健康リテラシーの向上とのべ406社との産学連携を推進してきた。

シンガポールに拠点を置く Asia Pacific Eldercare Innovation Awardsにより2018年5月に「Global Ageing Influencers」に、2024年5月に「Super Ageing Japan Outstanding Entrepreneur(スーパー・エイジング・ジャパン卓越起業家)」に選ばれた。

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