中小企業によるシニア市場開拓の「カギ」は何か?

国内動向

シルバー産業新聞 連載「半歩先の団塊・シニアビジネス」第115回

新規事業参入に必要な「4つのこと」

シニア市場のみならず、新規事業分野に参入するためには、①時流を得た事業企画、②差別力のある商品・サービス、③適切な販売チャネル、④ターゲット顧客向けのブランド、が必要となる。

筆者は、多くの企業の新事業企画・立ち上げを支援しているが、大企業に比べて、中小企業における新分野への取り組みは、壁が高くなりがちである。その理由は、大抵の場合、先の4つが不足しているためだ。

つまり、①良い企画が出てこない、②自社の商品・サービスでは差別化ができない、③既存の販売チャネルでは、ターゲット顧客にリーチできない、④ターゲット顧客に対する知名度が低い、のである。

中小企業に不可欠な「提携戦略」

このような「ないない」づくしの状態で、中小企業において新事業を進めるためには、何から何まで自社で開発・生産していたのでは間に合わない。そこで不可欠なのは「提携戦略」である。提携戦略とは、自社単独ではできない打ち手を可能とする戦略だ。

中小企業といっても、得意分野では、必ず何らかの知名度や強みがあるはずだ。すでに何らかの強みをもつ企業は、現時点でシニア市場向けの経営資源が不足しても、提携戦略で事業としての体制を整えることが出来る。

提携戦略を進める際に肝心なのは、利害関係や企業文化の違う異業種企業を巻き込み、提携戦略を企画し、実行できる力量のある「プロデューサー役」の存在である。

ところが、多くの中小企業における課題は、こうしたプロデューサー役が社内に少ないことだ。これはプロデューサー的な資質のある人材が少ないだけでなく、たとえそのような人材がいても、既存の収益部門のキーパーソンであるため、新規分野の担当者にできないためだ。

経営トップが最初に必要なのは「優先順位のコミット」

したがって、このような状況の中小企業で効率的に新事業を推進するのに最初に必要なことは、「トップによる優先順位のコミット」だ。つまり、全社員に向かって「わが社は、今年は○○の分野に進出する。社長はこの動きを全面的にサポートする」という「決意表明」だ。

同時に必要なのは、新事業を担当する実務責任者を決定し、プロジェクトの目標、期限、予算を与え、その権限を委譲することである。

この責任者を指名する際に重要なのは、他に適材がいない場合、敢えて収益部門の現場のトップを新規部門のトップに指名することだ。当面は兼務でかまわない。こういうと「そんな人事は非現実的」と言われるかもしれない。だが、実はこのやり方が「最も現実的」なのである。

新事業を立ち上げる際に、その実務責任者を社外から採用する例がある。メリットは、既成概念にとらわれず、発想転換が出来ることである。一方、デメリットは、社内文化や事情に疎いため、既存部門と軋轢を起こし、現場を動かせず、内部圧力で潰されてしまうことだ。

収益部門の現場のトップを新規部門のトップに指名する

また、社内公募で人材を募るやり方もある。メリットは、社員の自発性が尊重され、やる気が出やすいことだ。デメリットは、公募しても現状の上司との関係から実際には手を上げにくく、人が集まりにくいこと。そして、集まった人材が適材とは限らないことだ。

収益部門の現場のトップを新規部門のトップに指名する最大のメリットは「現場を動かす力」を持っていることである。社内事情にも詳しく、実績を上げているので、他部門が文句を言えない。また、現状の収益部門の限界や課題もわかっており、現業を拡大するための新規分野の方向付けがやりやすい。

まとめると、①新規事業分野を「本業の付録」的な位置づけにせず、既存の収益部門と同等の優先順位とする、②社内の実力者を新規分野の担当責任者とする③経営トップが最終責任は自分にあることをコミットし、権限も予算も支援する。

もし、シニア市場開拓を本気でやりたいのなら、まず、この三つをやるべきだ。

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この記事を書いた人
村田 裕之

村田アソシエイツ株式会社代表取締役、東北大学加齢医学研究所スマート・エイジングセンター特任教授

日本の中高年向け事業開発プロデューサー、起業家、社会学者。専門は中高年を対象とした事業開発と消費行動分析、日本と諸外国の高齢社会研究、スマート・エイジング論など。

1999年に日本で初めて「アクティブシニア市場」の重要性を指摘し、情報武装した高齢者「スマートシニア」の出現を予言した。2004年に「シニアビジネス」という言葉を初めて公に提唱し、女性専用フィットネス「カーブス」の日本への紹介、NTTドコモ「らくらくホン」の商品開発支援、関西大学とのカレッジリンク型シニア住宅の創成など、950以上の企業の事業開発に携わっている。日本におけるシニアビジネス分野の第一人者として知られている。

2006年に東北大学からの依頼でスマート・エイジングのコンセプトを提唱し、2009年10月東北大学スマート・エイジング国際共同研究センターの設立に参画。スマート・エイジング・カレッジを11年間主宰し、市民の健康リテラシーの向上とのべ406社との産学連携を推進してきた。

シンガポールに拠点を置く Asia Pacific Eldercare Innovation Awardsにより2018年5月に「Global Ageing Influencers」に、2024年5月に「Super Ageing Japan Outstanding Entrepreneur(スーパー・エイジング・ジャパン卓越起業家)」に選ばれた。

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