介護保険に頼らないシニア市場の開拓を

国内動向

シルバー産業新聞 連載「半歩先の団塊・シニアビジネス」第100回

介護保険に頼らないシニアビジネス市場の有望性

最近、多くの介護事業者が介護保険外のシニアビジネスを模索し始めている。私のもとにもしばしば相談が寄せられる。直接の背景は、今年4月の介護保険制度改正で介護報酬が減額になり、保険制度にべったり依存した事業はその先行きが危ぶまれているからだ。

とはいえ、公的介護保険制度がなくなるわけではない。また、全体として減額とはいえ、国が挙げる重点項目をきちんと実践している事業者は、逆に増額になるという報告もある。

一方、わが国では総人口の減少と人口動態のシニアシフトが今後も進むと予想されることから、限られた財源をいかに効率良く運用するかが求められる。

つまり、従来福祉や社会的弱者救済の美名のもとに甘く見過ごされていた特養や小規模デイなどの事業は、投入した介護報酬額に相応しい成果が厳しく求められていくことになる。

これらを踏まえると、今後介護事業者は、①国の求める方向性にくらいつき、介護報酬を得て事業を経営する、②介護保険制度に依存しない事業を開拓する、のいずれかを選択する必要がある。

もともと介護保険に依存しないシニアビジネスに長年取り組んできた私の立場では、当然②をお勧めしたい。

元気なシニアの市場は人数で見れば要介護者の市場の約5倍

内閣府の平成26年版高齢社会白書によれば、要介護者等認定者数は平成24(2012)年度末で545.7万人、同年10月現在で65歳以上の人口は3079万人。これより65歳以上の人口の82.3%、2533万人がまだ介護を要しない人数となる。つまり、人数で見れば要介護者の約5倍の市場が存在するのだ。

さらに海外に目を向けるとシニア市場が拡大していることがわかる。特にアジア各国で高齢化が進み、高齢先進国・日本への関心がここ数年急速に高まっているからだ。一方、アジア各国では韓国を除いて日本のような公的介護保険制度は存在しない

ということは、アジアでのシニア市場で日本の事業者が優位に立つためには、介護保険制度に依存しないビジネスモデルが不可欠なのだ。介護保険に頼らないシニアビジネスの重要性はこの理由からも明らかだろう。

保険ビジネスで当たり前の商習慣への発想転換が必要

介護保険制度に依存してきた事業者が、保険外のシニアビジネスを始める際に知っておくべき常識をお話ししたい。

第1に、事業におけるコストと品質とのバランス感覚を持つこと

以前、ある小規模デイで次の光景を見て唖然とした。10人の利用者に対してスタッフが10人。食事、2回のおやつはスタッフによる上げ膳・下げ膳、ピアノの生演奏まであった。こうした過剰スタッフと過剰サービスでも事業が成立したのは保険報酬のため。だが、保険外ビジネスではあり得ない。例えば、中高年女性フィットネス「カーブス」では、1店舗のスタッフは平均3人。これで3~400人以上を相手にしている。

第2に、保険サービスの時と別の土俵での市場開拓が必要なこと

私の所属する東北大学と公文教育研究会とで開発した対認知症非薬物療法の「学習療法」は、全国でのべ2万人以上の利用者がおり、アメリカにも輸出されている。利用料は当初月間一人税抜1500円だったが、ある時2000円に値上げしたら、多くの介護施設から猛烈なクレームを受けた。

値上げ後でも1日67円の費用は決して高価とは思えないのだが、保険外サービスのために、自費負担が増えることへの抵抗感が大きいのだ。保険サービスに慣れている顧客に保険外サービスを提供する場合は、既存の保険サービスとは別の土俵で行うべきだ。

第3に、商品には機能だけでなくスタイリッシュさが必要なこと

私もマーケティングに関わった「らくらくホン」は、シニアが使いやすい機能を満載した優れたものだ。だが、初期のモデルでは「年寄り臭い」と言われ、シニアでもそれを嫌う人からは敬遠された。

その後、お洒落で格好良いデザインに変更したところ、売り上げを大きく伸ばした。介護用品分野でも機能は優れているがデザインはいかにも年寄り臭いものが多い。これも保険市場と言う官製市場でよく見られる風景だ。

保険外ビジネスでは、こうした保険ビジネスで当たり前とされている商習慣に対する発想転換が必要だ。

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