シニアの暮らし方を日本から世界へ発信

海外動向

オリックス・リビング 美空Vol.43 美空対談35

オリックス・リビングが四半期に一度発行する雑誌「美空(MISORA)」同社の森川悦明社長との対談が掲載されました。

対談のなかでもお話ししていますが、森川社長との出会いは5年ほど前。日本のシニア住宅のパイオニアの一人でいらっしゃる森川社長と私との共通の価値観の一つは、「公的介護保険制度に依存しない普遍的価値」をいかに創造するか。

今回は森川社長からのお誘いで、いろいろと語り合いました。以下に全文を掲載させていただきます。

シニアの暮らし方を日本から世界へ発信

シニアビジネスの第一線で活躍する村田裕之さん。著書の『シニアシフトの衝撃』では、多くの事例を紹介しながら、超高齢社会のビジネスのあり方を力強く語っています。

10年前から、日本に新しい老いの暮らし方を提案してきた「グッドタイム リビング」が、次に目指すべき道とは?世界的な視点で今後の可能性を語り合います。

自らが望む老いの暮らしを選ぶ。この10年で、その考え方や価値観が大きく変わってきました。
――森川悦明

日本の介護事業者が国際競争力を持つには人の力を最大限に発揮するための介護機器などのテクノロジーが重要です。
――村田裕之

日本人の感覚に合ったほどよい心地よさ

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森川 村田さんとの出会いは、5年ほど前に、香港で行われた高齢者住宅をテーマにしたフォーラムでしたね。その後、アジアの事業者が一堂に会するAAIF(Ageing Asia Investment Forum)にご一緒するようになりました。

村田 私は現在、AAIFアワードの審査員をしていますが、日本からの参加者は客観的に見て、レベルの高い事業をしています。今回最優秀賞を受賞した『グッドタイム リビング(GTL)なかもず』は、世代間交流というコンセプトを実践されている点が評価されました(16ページ参照)。

森川 ありがとうございます。今回の受賞は大変励みになりました。

村田 オリックス・リビングは日本のシニアリビングの牽引役の一人、故・春山満さんがプロデューサーとして活躍され、設立当初から注目していました。アメリカのCCRC(Continuing Care Retirement Community)を参考に新しい高齢者住宅を日本で展開され、同じように新たなシニア住宅事業を手がけていた私にとって、気になる存在でした。

森川 CCRCは、元気な時に移住して、介護が必要になっても、継続して必要な介護を生涯受けることができるリタイヤメントコミュニティ。私はフロリダで視察し、「すごい、こんなに夢があって。今までにない高齢者住宅を日本に創りたい!」と思うようになりました。「高齢者の新しい暮らし、街を創る」という可能性を強く感じましたね。

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村田 日本では2000年4月まで、公的介護保険制度がなく、介護は社会的弱者を救済する措置の時代でした。民間の老人ホームはごく一部の富裕層がターゲットで、介護が必要になったら特別養護老人ホームや介護老人保健施設に入るしかありませんでした。シニア住宅の立ち上げに参画し、悪戦苦闘して痛感したのは、ロケーションがよく、建物や内装が素晴らしくても受け入れられるわけではない、ということ。日本で高齢者住宅に入居する理由の多くは、介助が必要になって自宅に住み続けることができなくなることです。

森川 私どもでは、10年前から、主にお元気で自立された方の住まい「プラテシア(PTA)」と、介護が必要な方が暮らしやすい「グッドタイム リビング(GTL)」の両方を提案してきました。健康状態が変化したら移り住むことも可能なCCRCの概念を取り入れたものですが、実際にはPTAにはなかなかご入居いただけませんでした。しかし、昨年7月にオープンした『PTAセンター南』は大変人気となりました。入居適齢期の平均年齢は80歳で、10年前は大正生まれの方でしたが、今は昭和10年頃に生まれた方々になります。考え方も大きく変わってきた印象です。

村田 数多くの事業者の中で、ぶれることのない理念と継続性は特筆に値します。10年前といえば、売る側が豪華なイメージの自立型シニア住宅を造り上げたものの、その後のリーマンショックで経営難に陥って。私は一旦このマーケットは消えたと思いましたが、それにより日本人の好みやメンタリティ、資金面で適したシニア住宅が明確になった。豪華すぎず、かといって質素すぎず、ほどよい心地よさ、その勘所といいますか。

森川 そうですね。住みたくなる家をつくるという姿勢は、とても大事だと思います。ですから、いわゆる型通りの高齢者住宅ではなく、ゲストハウスごとに特色を設けて、「素敵な住まいね」と、心弾ませていただける設計にこだわっています

村田 さらに、この10年で大きく変わったことが海外、特にアジアの高齢者住宅業界です。シンガポールを例にあげると、2010年頃までは、アクティブシニア市場に注力していたのですが失敗し、先日、保健省(日本における厚生労働省)の方と話したら、「医療と介護をどう連携するか、在宅介護をどうするか」という話題にシフトしていました。

森川 国土が狭いシンガポールでは、新しい高齢者住宅を造るよりも、現在高層型住宅で暮らす年配の方を、どのようにケアしていくのか考える方が現実的ですね。

村田 その通りです。高齢化率と1人当たりのGDP(国内総生産)がある数字に達すると、その国と似た水準の他国の商品が売れ出すという興味深い現象があります。日本の高齢化率は現在26・7%、シンガポールは約13~14%、香港は約15%です。一方、1人当たりのGDPは日本が3万USドル弱、シンガポールは約5万USドル、香港は4万USドルです。日本では2000年に高齢化率が17.4%でしたから、今後アジア各国は日本と同じ軌跡をたどると予想できるのです。オリックス・リビングの事業は、近い将来、アジア各国で求められるでしょう。

機器ができること、人でなければできないこと

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村田 介護業界で国際的な競争力を持つためには技術(テクノロジー)の活用が不可欠です。GTLでは介護リフトや見守りシステムを積極的に導入されていますが、素晴らしいのは、「人の力を最大限発揮するツール」としてテクノロジーを使っていることです。「介護機器は人を置き換えるもの、コストが削減できる」というのは非常に薄い見方であり、機器にできることは機器がやり、人でなければできないことを人が担当する。それが人間とツール(機器)の正しい共存のあり方だと思います。

森川 今まで人ができなかったことをテクノロジーでできる例もあります。例えばこれまでは、スタッフがお部屋に行かなくては、ゲストのご様子は確認できませんでしたが、見守りシステムを導入すると、ベッドからの転倒の予兆動作をつかめ、適切なタイミングでお部屋にうかがうことができます。さらにセンサーが正確な記録を残すことで、ゲストの現状把握や問題分析がしやすくなります

村田 なるほど。こうした思考の深まりを体現している高齢者住宅事業者は、私が知る限りでは、ほんの一部です。また、入居している方がアクティビティに参加することも重要ですが、その点に注力されているのも先進的ですね。

森川 はい、お部屋から出て、アクティビティやそこに参加する機会を作ること、また個人に合わせたプランのアプローチを意識しています。特別なことではなく、「秋に家族とおでかけできるように、まずは公園まで歩けるようになりましょう」など動機付けをして、日常の活動範囲を広げるのです。また、一人暮らしですと何日も出かけず、誰とも話さなかった、ということも起こります。GTLには「いつでも人とかかわって動く場を作る」という機能もあるのです。

村田 さらにこれからは、海外でも価値を認められる日本の経営者が沢山出てきて欲しいですね。日本の外に出ると、見えてくることも多くあります。

森川 海外に行くと他国のよさを発見すると同時に、日本のよさも実感できます。例えばデンマークでは、民間の介護サービスはなく、自分の最期を選ぶ余地がありません。日本の民間企業の自由度、工夫を凝らしたサービスの可能性は、まだまだあると感じます。

村田 食生活の豊かなバリエーションも日本ならでは。食事提供のノウハウを、ぜひ海外へ。日本食ブームですから、きっとウケますよ。

森川 最近、AAIFの名称の「I」の部分が「Investment(投資)」から「Innovation(革新)」に変わりました。これも私たちの「もっと良くしなければ」という考えの影響ではないでしょうか。

村田 これからも世界的視野で発想していきましょう。

森川 はい。私たちの強みを生かして、世の中を変えていきましょう。

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