高齢者住宅新聞連載 村田裕之の「シニアビジネス相談室」第81回
市場調査をしただけでは新規事業の差異化はできない
多くの企業は、シニアビジネスを始める時に市場調査から始めます。しかし、市場調査で有望なビジネスの芽を見つけたとしても、そのビジネスに必要な経営資源が自社に乏しく、断念することもよくあります。
したがって、新規事業を企画する場合は「自社の強み」が何で、それをどう活用すれば市場で差異化できるかを徹底的に考えていく方が早道です。
小野薬品は医薬品並みのエビデンスレベルでサプリの効果検証を行った
例えば、小野薬品ヘルスケアの睡眠支援サプリメント「レムウェル」の商品開発では、医薬品を扱う「製薬メーカーとしての強み」の活用が見られます。
コロナ禍をきっかけに睡眠支援商品への需要が拡大し、多くの企業が市場参入しました。しかし、数多ある睡眠支援サプリには、効能の拠り所となるエビデンス(科学的根拠)が曖昧なものが少なくありません。
「レムウェル」の場合、サプリにも関わらず、医薬品並みのエビデンスレベルの高い手法(ランダム化二重盲検プラセボ対照並行群間比較試験)で、人を対象に12週間の効果検証を行って学術論文に掲載しています。
こうした手法は、高い専門性が求められるため、医薬品開発に習熟した製薬メーカーの強みを活かした取り組みと言えます。
ChocoZAP黒字化のカギはRIZAPのブランドイメージと経営トップのリーダーシップ
別の例では、RIZAP株式会社が立ち上げたChocoZAPが挙げられます。24年2月14日時点で店舗数1333店、会員数は112万4000人、事業開始1年4か月で単月黒字化を達成しました。
この事業で活用した「自社の強み」の一つは、RIZAPで培った「高額ボディメイキング」のブランドイメージです。「あのRIZAPがつくった月額2,980円のコンビニジム」という意外感がニュース性を感じさせ、多くのメディアに取り上げられました。
もう一つは、瀬戸健社長の強力なリーダーシップです。瀬戸氏は「事業開始前に社内で長時間議論ばかりするのは時間の無駄」として、まず出店して、顧客の反応を見ながら、修正していくやり方を取りました。
結果として、当初に比べスポーツジムの色彩が薄れましたが、これだけのスピード感で単月黒字化できたのは、社長が先頭に立って事業に取り組んだからに他なりません。
「自社の強み」が何かをきちんと評価して、どう活用できるかが重要
ここで注意して欲しいのは、「新規事業を進める時は、全て市場調査なしで、社長のトップダウンで進めるのがよい」のではないことです。
あくまで小野薬品は小野薬品の強みを、RIZAPはRIZAPの強みを活用して新規事業の差異化を図った点が重要なのです。
重要なのは「自社の強み」が何かをきちんと評価して、それをどう活用できるかです。
一方、「自社の強み」が自社では見極めできないことも意外に多いようです。その場合は、外部のプロの力を借りて客観的に評価してもらうのも手でしょう。