高齢者住宅新聞連載 村田裕之の「シニアビジネス相談室」第74回
シニア向け市場調査では母集団にバイアスがかかることが多い
シニア向けの市場調査を専門とする調査会社がネットアンケートを多用している場合、回答者の属性を明らかにするために、あらかじめ会員プロファイルの登録を行っています。
そして、調査のテーマ毎に参加を呼びかけ、回答者に一定の謝礼を支払うことで、母集団を確保するという手法が多いようです。
ところが、こうした手法には、いくつかの面で母集団にバイアスがかかりやすくなる欠点があります。
一つは、テーマの内容によって、母集団の数そのものが少なくなり、もはや統計学上の「大数の法則」を前提とした調査ではなくなることです。
シニア対象の調査には謝礼目的の人が多く集まりやすい
もう一つは、会員登録をしている人には、回答に協力して謝礼をもらうことが動機となっている人が多いため、回答内容の信憑性が低下しやすいことです。
このような状況では、回答者は設問に答える際に、「いつものアンケートか、適当に答えておけばいいや」という慣れ合い姿勢になりやすく、回答の信憑性は低くなります。
また、ネットアンケート調査の母集団には、キーボード入力やパソコン利用に抵抗感の少ない「情報技術に強めの人」が多いのです。これも母集団にバイアスがかかることを意味します。
全ての市場調査手法には、それぞれの適用限界があることに注意
これらの話は、ネットアンケート調査という方法論そのものを根本的に否定するように聞こえるかもしれませんが、そうではありません。
以前の連載で述べたとおり、現時点の事実関係の確認という面では、回答者が事実を記入する限り、信憑性は保証されます。
問題なのは、調査を実行する主催者が、ネットアンケート調査に、その手法の構造上の適用限界があることをきちんと認識したうえで、実行しているのかどうかなのです。
実は、アンケート以外のグループインタビューやフォーカスグループなど、すべての市場調査手法には、それぞれの適用限界があります。
やむを得ず、調査会社に依頼する場合は、本稿で述べた注意点を頭に入れて、注意深く依頼することをお勧めします。