2022年5月28日 日経MJ連載 納得!シニア消費
課題が多い高齢者施設でのオンライン面会
新型コロナウイルス禍の長期化による弊害のひとつは、高齢者施設にいる老親との面会制限だ。
高齢者は重症化リスクが高いとされ、感染予防のため長らく家族との面会ができず、精神的な落ち込みが見られることが多い。ビデオ会議アプリの普及に伴い、施設入居者とのオンライン面会が実施されるようになったが課題は多い。
施設職員にとってはパソコンなどの準備、入居者の家族との日程調整などの負担が大きい。入居者の家族がアプリを使いこなせないことも多く、使い方の説明にも手間がかかる。
「まごチャンネル」は老親が使い慣れたテレビで子・孫と会話ができる
こうした不便の解消手段として注目を浴びているのがチカク(東京・渋谷)による通信機器「まごチャンネル」だ。
動画や写真の共有サービスだが、2022年に入り、「テレビ電話」の機能を追加。高齢者側はマイクとスピーカーが一体となった専用カメラを機器に接続し、子供や孫側はスマートフォンに専用アプリをダウンロードすることでテレビ電話ができる。
まごチャンネルの既存ユーザー限定でサービスを提供していたが、好評のため、今後、テレビ電話だけでも申し込めるように本格展開する考えだ。
テレビ電話だけの月額料金は24カ月までは1,375円で、25カ月以降は550円の予定だ。別途通話料がかかる。
大画面で通話でき、家族の顔がはっきり見える
支持されている大きな理由はやはり、従来のサービスと同じく、機器の接続が簡単でインターネットやIT(情報技術)機器の知識が乏しい高齢者も簡単に扱える点だ。
使い慣れたテレビで気軽に家族と会話ができる点も受けている。ネットによるビデオ会議では高齢者にもパソコンやスマホなどが必要で、ハードルが高い。
画面がかなり大きいこともテレビの利点だ。老親でも子供や孫の顔を大きく、はっきりと見られる。高齢者にとってはかなり重要だ。
埼玉県所沢市の小山次郎さん(61歳、仮名)は実家のある新潟県三条市の特別養護老人ホームに入居中の母チズさん(94歳、仮名)とタブレットとビデオ会議アプリでオンライン面会を試みた。
だが「母さん、次郎だよ」と何度呼びかけても自分のことを認識しなかったという。タブレットに映る小さい顔では認識が難しかったのかもしれない。
実家の老親の見守り・自治体との連携も進む
高齢者施設だけでなく、実家に住む親の見守り手段としても引き合いが増えている。
セコムと共同開発した「まごチャンネル with SECOM 」は機器に見守りセンサーを加え、親の居室の環境変化や起床・就寝などの動きをさりげなく見守ることができる。海外在住の子供でも遠く離れた日本に住む老親の見守りができると評判だ。
自治体との連携も進んでいる。大阪府泉大津市とは情報弱者の高齢者への情報伝達手段として、まごチャンネルを活用した実証実験を行った。災害時の避難方法や、介護予防のための体操に関する情報の提供が一定の行動変容につながることが確認されている。
エイジテックのフロントランナーのような製品
高齢者の課題を解決する技術を「エイジテック」と呼ぶ。介護ロボットなどが典型例だが、かつては技術の先進性を売りにする供給者目線のものが多かった。
だが、優れたエイジテックとは、高齢者の立場をよく理解して気持ちに寄り添い、高度な技術を使っていても“技術の臭いがしない”ものだ。まごチャンネルはそのフロントランナーのような製品と言えよう。