オイカワデニム 使い手と製品とが加齢に伴い、なじみ合っていく 

メカジキの角と製品化されたジーンズ。ボタンなどに金属を一切使わず土に還せるようエコにも配慮 商品・サービス別
メカジキの角と製品化されたジーンズ。ボタンなどに金属を一切使わず土に還せるようエコにも配慮

2023年8月25日 日経MJ連載 納得!シニア消費

本連載では「不(不安・不満・不便)の解消」がシニアビジネスの基本であることを多くの事例で示してきた。だが、これ以外にも切り口はたくさんある。高品質のジーンズで世界的評価を受けているオイカワデニム(宮城県気仙沼市)はその一例だ。

同社製品購入者の年齢層は50代以上が約60%。性別はほぼ男女半々。実は著名な俳優、歌手、野球選手などにも愛用者が多い。こうした目の肥えた中高年層にファンが多い理由は何か。

理由1:使うほど体になじみ、自分オリジナルの製品になっていくこと

1つ目は、使うほど体になじみ、自分オリジナルの製品になっていくこと。栃木県の小山武さん(仮名、66歳)は「はき込んでいくと驚くほど生地がしなやかになり、はき心地がとても良くなる」と言う。

同社のデニムは、防縮加工していない未洗いの「生デニム」と糊(のり)抜きした「ワンウォッシュ加工」のみ。このため、最初は生地が硬く感じるが、「5年、10年とはき込むうちに体になじんでいき、いわゆる“アタリ”が付いたり、シワ状の“色落ち”が出たりと、自分独自のジーンズが出来上がる楽しみがある」(小山さん)という。

理由2:「世界一強いデニム」と評価を受けた丈夫さ

2つ目は、「世界一強いデニム」と評価を受けた丈夫さ。長く使い込んでもらうためには、それに見合うだけの製品の耐久性が必要だ。同社では、従来使われていた「綿糸」の代わりに、縫製時に倍以上の耐久性が出ると言われる「麻糸」で縫えるように、独自にミシンを改良するなど業界初の技術革新に取り組んできた。

その結果、パリの展示会でその丈夫さが高く評価され、英国やイタリア、ドイツ、ベルギー、スウェーデン、ロシアなど多い時には海外50店舗へ輸出されてきた。

東日本大震災の際に津波で倉庫から数千本のジーンズが流された。その後、がれきと泥の中から見つかったジーンズには一本も糸のほつれがなかった。「奇跡のジーンズ」と呼ばれたこの有名な逸話は、同社の技術力の高さを知らしめたものだ。

理由3:天然素材を使いながら、強さとはき心地を両立していること

3つ目は、天然素材を使いながら、強さとはき心地を両立していること。東京都の鈴木義信さん(仮名、62歳)は「見た目よりはき心地が軽く、不思議とゴワゴワ感がない。メカジキの角の繊維の影響だろうか、はいているとだんだんなじんでくる」と語る。

鈴木さんの愛用品は、メカジキジーンズと呼ばれ、素材の約40%が気仙沼で水揚げされるメカジキの角を原料とした世界初のジーンズだ。同社は通常廃棄されるメカジキの角を粉末化してオーガニックコットンの繊維の芯に織り込んだ新素材を開発した。

この素材は防臭性、抗菌性、難燃性、保湿効果など、優れた機能があり、長期間使い込んでもらうデニムにドンピシャリであることがわかっている。

エイジング・フレンドリー(経年変化に適応する)の概念を商品具現化

一般に衣服は使い込むほど傷んで価値が下がる。だが、オイカワデニムは使い込むほど、使い手の体になじんでいき、それゆえ愛着も強くなる。

使い手と製品とが加齢に伴い互いになじみ合っていくという性質は、筆者が以前より提唱している「エイジング・フレンドリー(経年変化に適応する)」の概念を商品に具現化したものだ。

地域資源を付加価値として発信し続ける同社が、高齢化が進む世界各国から再び脚光を浴びる時は近いだろう。

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