昭和レトロが受ける場合、受けない場合 違いは?

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昭和傑作テレビドラマDVDコレクション

シルバー産業新聞 連載「半歩先の団塊・シニアビジネス」第197回 

昭和レトロが受ける理由は顧客層で異なる

ここ数年、昭和レトロを前面に打ち出して売り込もうとする商品例が散見される。だが、昭和をテーマにすれば必ず受けるわけではない。

仮にこうした商品・サービスが受ける場合、対象とする顧客層によって受ける理由が異なることに注意が必要だ。

昭和文化を「世代原体験」に持つ中高年が顧客層の一つ

顧客層の一つは、昭和文化を「世代原体験」に持つ中高年だ。本連載第178回で述べた通り、世代原体験とは特定の世代が20歳頃までに共通にもつ文化体験をいう。食生活、文学、音楽、映画、漫画、テレビ番組、ファッション、スポーツ、生活環境などがある。

この顧客層の場合、これまでの連載で述べた通り、対象の年齢層によって次の消費形態がある。

  • 40代:ノスタルジー消費(連載第135回)
  • 50代~60代:自己復活消費、夢実現消費(連載第166回)
  • 70代以上:愛用品消費(連載第103回)

これらの消費形態は、世代特有の嗜好性を基に自分や家族のライフステージの変化に伴って生まれる。また世代特有の嗜好性の多くは、世代原体験により形成されていることが重要だ。

昭和文化を世代原体験に持たない若年層も顧客層

もう一つの顧客層は、昭和文化を世代原体験に持たない10代~30代の若年層だ。この顧客層の場合、昭和の文化体験自体が目新しく、新鮮に見える。

例えば、アナログレコード(プレーヤー、ジャケットなど)、カセットテープとレコーダー、濃い緑色のソーダにアイスが浮かぶクリームソーダ、昭和の街並みを再現した施設などがそうだ。

昭和がテーマの商品が受けている場合には、これらの消費形態に合致していることが多い逆に言えば、合致しない場合は苦戦する。

事例で見る「昭和レトロが苦戦する理由」

アシェット・コレクションズ・ジャパンという会社が本年8月16日から発売している「昭和傑作テレビドラマDVDコレクション」が一例だ。

本稿執筆時点(8月25日)では、まだ発売1週間余りなので結論は出ていないが、苦戦すると思われる最大の理由は、商品とターゲット顧客層とのミスマッチだ。

この商品は、1975年に中村雅俊主役でテレビ放映された「俺たちの旅」を筆頭に、中村主演の他の番組シリーズ、宮内淳、石立鉄男などが主演の番組を毎月DVDとマガジンで定期購読者に送付するものだ。

ターゲット顧客層は、明らかに中高年層でノスタルジー消費狙いと思われる。ノスタルジー消費が現れやすいのは当事者が40歳を過ぎた頃だ。

ところが、「俺たちの旅」が放映された1975年は2023年を基準にすると48年前だ。2023年時点の40代をターゲットにすると、番組が放映された時に彼らはまだ生まれていない

「昭和レトロ」を前面にうたえばヒットするとは限らない

一方、1975年の放映時に10代だった人は、2023年時点で50代後半から60代後半である。この年代では、ノスタルジー消費よりも、自己復活消費や夢実現消費の方が現れやすくなる。

逆に2023年時点でノスタルジー消費によるヒットを狙うのであれば、40代(1974年から1983年まで生れ)が10代の頃(1984年から1993年まで)の文化体験をフックにしたものが必要

「昭和レトロ」とうたえばヒットが期待できる、という考えは安直過ぎる。世代特有の嗜好性を考慮した商品戦略には、脳科学や心理学、社会学的な知見に基づく緻密な思考が必要なのだ。

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