不動産経済 連載 シニアシフトの衝撃 第2回
シニア市場の重要性に気がつき、「シニアシフト」に取り組んでいるものの、苦戦している企業が多く見受けられる。今回はこうしたシニア市場に対する「誤った見方」と「正しい見方」を対比し、シニア市場への効果的なアプローチのための認識を共有したい。
誤った見方1:シニア層は、他の年齢層よりお金持ちである
正しい見方1:シニア層は、他の年齢層より資産は多いが、所得は少ない
総務省統計局による「家計調査報告」平成22年(2010年)によれば、1世帯当たり正味金融資産(貯蓄から負債を引いたもの)の平均値は、70歳以上で2,145万円と最も多い。2番目が60~69歳で2,093万円、3番目が50~59歳で1,150万円、4番目が40~49歳で225万円と一桁下がる。39歳以下はマイナス、つまり貯蓄より負債の方が多い。
また、年代別の持家率で見ると、60歳代、70歳代ともに92%超の持家率となっている。このようにシニア層は、他の年齢層に比べて平均的には資産持ちである。
一方、厚生労働省「国民生活基礎調査」平成22年(2010年)によれば、世帯主の年齢階級別の「年間所得」(図表1)は、50~59歳で731.9万円と最も多い。2番目が40~49歳で678.5万円、3番目が30~39歳で551.3万円、4番目が60~69歳で539.5万円、5番目が70歳以上で406.5万円となっている。
資産持ちの60代・70代は、所得では4番目と5番目なのである。この主な理由は、多くの世帯主が退職し、主たる収入源が年金だからである。
誤った見方2:シニア層は、資産持ちなので日常消費も多い
正しい見方2:シニア層の日常消費は、資産ではなく、所得に比例する
前掲の「国民生活基礎調査」を眺めると、年代別の1カ月の消費額(図表2)は、40歳代が30万2千3百円、50歳代が29万9千9百円と金額が多く、60歳代、70歳代になると減少する。
つまり、世帯主の年齢階級別の世帯当たり1か月間の「消費支出」の傾向は、前掲の世帯主の年齢階級別の「年間所得」の傾向にほぼ比例している。資産が多いからと言って、それがすべて日常の消費に回っているわけではないのだ。
誤った見方3:シニア層は、消費の仕方が同じ
正しい見方3:シニア層でも、年代が変われば消費の仕方は異なる
図表2を眺めると、消費の合計額は年齢が上がると減少するが、実は費目ごとに見ると、減少するもの、増加するもの、変わらないものがあることがわかる。まず、減少するものは、教育費、被服・履物費。それ以外に食費や教養・娯楽費も金額は減るが、割合としては増える。
一方、金額が増加するものは、保険医療費だ。医療や介護、健康維持などにかかるお金が増える。最後に、変わらないものは、住居費、水道高熱費。多くの人が今の家に住み続けるので、家族構成が変化しても消費はあまり変わらない。
誤った見方4:シニア層の消費は、「年齢」で決まる
正しい見方4:シニア層の消費は、シニア特有の「変化」で決まる
シニアに限ったことではないが、私たちが物やサービスを買うのは何かの状態が変化した時だ。私たちの身体は年齢とともに変化し、一般的には衰えていく。
例えば、50歳代、60歳代の女性に「最近、体調や体型の変化で気になることはありませんか」という質問をすると、一番多い回答は、両年代とも「体力の衰え」だった。ところが、50歳代が肌の衰えや更年期障害を二番目に挙げたのに対して、60歳代は関節の痛みを挙げた。
これに対して、「美容や体型維持のために定期的にしていることはありますか?」と尋ねると、忙しい50歳代の多くがサプリメントを服用するのに対して、時間に余裕のある60歳代はウォーキング、スポーツジムなどで実際に運動する割合が多くなる。
こうした消費行動の差は、実は年齢ではなく、身体の変化の違いによって生じていることに注意したい。こうした消費を促す他の変化には、本人のライフステージの変化、家族のライフステージの変化、嗜好性の変化、流行の変化などがある。
誤った見方5:人数の多いシニア市場は、マス・マーケットである
正しい見方5:人数は多いが、新しい価値観で括られる多様なミクロ市場の集合体である
シニア層の消費行動は若年層に比べると非常に多様で、バラバラになる。団塊世代は人数が多いが、みんなが同じ物を買うわけではない。だから、消費されるものは、人によってばらける。
私は10年前から申し上げているが、シニア市場はマス・マーケットではなく「多様なミクロ市場の集合体」である。したがって、マス・マーケティングがやりにくい。
ただ、誤解がないように補足すると、マスメディアの威力がぜんぜんなくなったというわけではない。マスメディアの効用が変わってきているのだ。だから、商品提供側はマスメディアの使い方を工夫しないといけない。
シニア市場は「年齢」ではなく、新たな「価値観」で括られる市場と理解すべきだ。その新しい価値観が何なのか、これを見つけ出すことがシニア市場でビジネスを行なうカギなのだ。