どう読むか、アジアの若いシニア市場

どう読むか、アジアの若いシニア市場 海外動向

The Dairy NNA別冊カンパサール 第8

共同通信社のグループ会社NNAが発行するThe Dairy NNA別冊カンパサールにインタビュー記事が掲載されました。

フルカラー、A3見開きと言う最近ではあまり見ない上質な紙面で、全32ページのうち、15ページが、『アジアの「就活」最前線 シニアたちの生活設計』という特集記事。

アジア各地のシニアの現況がいろいろな角度からまとめられており、有用な情報が盛りだくさんで感心しました。私のインタビュー記事は特集の最後のページに一面で掲載されています。以下、全文です。

 村田インタビュー全文

シニアビジネスの市場としてアジアを意識し始めたのは、2008年くらいからです。シンガポール政府に呼ばれて講演をしたのですが、市場がシニアビジネスに意識を向けつつあるのを感じました。

それから4年たち、いま政府は将来を見越して危機感を強めているのですが、民間企業はまだ腰が引けている。調べてみれば、まだ若年層の割合が高く、関連のインフラも少ない。企業は目の前の若者を相手にビジネスをしたいと考えているので、当然、シニア向けの優先順位は低くなります。

ただ、今年もシンガポールで開催されたフォーラム「Ageing Asia Investment Forum (AAIF)2012」に出席しましたが、いよいよこの分野がビジネスになりそうだなという雰囲気を感じました。

アジア市場は多様で複雑

一口でアジアと言っても広範で多様であり、内実は複雑です。高齢化率は日本が23%なのに対し、香港や韓国、シンガポールがいずれも9~12%程度で日本の半分ほどです。ところが、これらの国と地域は次の20年で急速に高齢化する見通しで、それぞれの政府も危機感を強めています。

一方、中国の高齢化率は8%程度なのですが、実人数で言えば圧倒的に多い。60歳以上の人口は16,000万人くらい、65歳以上でも11,000万人はいる。しかし、この人たちが裕福かというとそうではなく、9割程度はお金がない層といってもいいと思います。

退職の年齢もさまざまです。日本では65歳で定年なのに対し、シンガポールは62歳で、これを近く65歳に引き上げる見通しです。韓国は企業によって定年は5563歳と幅を持たせており、平均は58歳とされています。

このように、企業が進出する際には高齢化率やシニアの絶対数、所得水準や所得格差、退職年齢、人口分布などさまざまな要素を考慮し、どのようなサービスや商品を、どのようなタイミングで投入するのかを考える必要があります。

例えば先日、福祉車両をアジアに投入しようと検討している自動車メーカーの人と話をしました。進出先として「やっぱり中国かな」と言っていましたが、その理由は「人口が多いから」だと言う。ただ、福祉車両は普通の自動車よりも単価が高い。それをそのまま輸出しても、実際に買おうという人はごく一部の富裕層に限られるわけです。

「人が多いからなんとかなる」と安易に考えても、事業はうまく行かないでしょう。進出を検討するに当たっては、自分の会社がどのあたりの層を狙い、ターゲットにするのかを明確にする必要があります。どんな分野でもそうでしょうが、闇雲に海外市場に飛び出しても、当てが外れる可能性は高いと思います。

介護ビジネスは人材ビジネス

香港やシンガポールは、アジアの中では比較的所得水準も高い方ですが、介護サービスのレベルは低い。そもそもまだ若い国だということがありますが、意外に貧富の差が大きく、富裕層はヘルパーの代わりにメードを雇う人が多い。

ただ、メードには家事の手伝いはできても介護の経験はない。これは事故につながりやすいので、プロフェッショナルなサービスが必要だと思っている人も多いのです。

こうした国は日本をベンチマークとして見ていて、日本の企業と組むことで、日本で確立されている介護サービスのスタンダードをそのまま自分たちの国に導入したいと考えています。

実際、いくつかの日本の企業がこれらの国の企業や政府と水面下で話し合いを進めているようで、関連企業の動きも活発になっていくでしょう。

一方で、介護ビジネスは結局のところ人材育成のビジネスで、時間がかかる。日本で介護ビジネスを展開してきた企業がアジア進出を考えるときに、最も危惧しているのはその部分です。

つまり、現地の人材を活用するにしても、進出した直後は日本から人が出向いてコーチする必要がある。介護ビジネスをよく理解していて、力量もありリーダーシップもある人材を長期間送り込まなければならなくなるので、企業が尻込みしたくなるのは当然だと思います。

介護では技術だけでなく、人材が介護の理念を理解することが大事になる。そこが欠けてしまうと、働いている人たち自身が、なぜ介護をやっているのかさえわからなくなってしまう。

ビジネスの仕組みも日本とは異なります。日本には介護保険制度があり、1割は自己負担、9割は保険報酬で賄われる。日本ではこれを基盤としてビジネスを組み立てられるわけですが、アジアの他の国では韓国で一部ある以外こうした仕組みがないので、自腹でサービスを受けなければならなくなる。

日本の介護業界は、これまで国内向けが主だったので、海外向けにするのも手間がかかる側面もあります。

これらのことを考えると、いまのところは多くの人手を割かずに済むシステムや出来合いの介護用品の販売を売りたいというのが企業側の本音かもしれません。

小売に可能性あり

日本でもメディカルツーリズムで外国人を呼び込もうという話がよく出ていますが、あまりうまくいっていません。メディカルツーリズムの利用者にとってのメリットは、良質の医療を安く受けられること。

日本の場合は、まず「安く」という点でタイなどに太刀打ちできない。だから、日本でやる場合は、価格の安さ以外のメリットが必要です。例えば、草津温泉のような、リゾート地としてのスケールと魅力をといったキラーコンテンツにできれば、メディカルツーリズムと組み合わせても商機があるかもしれません。

また、日本ではコンビニやスーパー、百貨店といった小売業がシニア向けの商品やサービスを次々に投入しています。ここで得たノウハウは、比較的早い段階でアジアに持っていくことができると思います。なぜかというと、日本国内では苦戦が続く百貨店を含め、この業界はすでにアジアに多くの店舗を持っているからです。

シンガポールでも香港でも、高層住宅が多い。こういう場所に住む人たちは身体が衰え動かなくなった場合、まず何に困るかといえば、食べ物の調達です。

だから、高層住宅の一階やその近くに店舗があれば、便利になる。現在はまだ若者がお客の中心でしょうが、数年後には確実に需要が出てくるでしょう。

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