「部分最適による不便」の解消が求められている

内反小趾の例 ビジネス切り口別
内反小趾の例

シルバー産業新聞 連載「半歩先の団塊・シニアビジネス」第198回 

買いたいものが一カ所にない「不便」を解消する

かつて、拙著「成功するシニアビジネスの教科書」『買いたいものが一カ所にない「不便」を解消する』ことがビジネスチャンスになると提言した。当時の百貨店やショッピングモールに対する提言だった。

拙著での提言後、新宿・伊勢丹メンズ館や松坂屋上野店のように、顧客のニーズに合わせて商品シーズを編集して一か所に提示する百貨店が増えてきたようだ。

医療関連分野は、未だ「サービス・シーズ」による縦割りが強い

一方、シニアの需要の多い医療関連分野は、未だ「サービス・シーズ」による縦割りが強く、シニアの「不(不便・不満)」が多い。少し長くなるが、最近の事例で説明したい。

埼玉県の佐藤博文さん(仮名、61歳)は、還暦を過ぎた頃から右足小指の付け根が痛むようになり、困っていた。爪の右側の奥に魚の目のような突起物ができたことがわかり、最寄りの皮膚科で切除してもらった。

だが、切除すると一旦痛みが減るものの、2週間もするとまた痛みが戻るという繰り返しだった。皮膚科の医師は、突起物の切除は行うが根本的な予防策は全く示さなかった。

佐藤さんはネットで調べたところ、突起物ができるのは靴の形が右足小指の形に合っていないためと知り、補正のためのインソール(中敷き)の専門店を訪れた。

インソール店では「突起物ができるのは、本来当たらない小指の場所に靴が当たっているから」と言われ、足の形と歩き方を精緻に調べてもらい、補正用のインソールを作成した。これにより、歩く際の靴のフィット感は改善した。

さらに、フィット感を良くするために、シューフィッターがいる靴屋に行き、8台のカメラで計測する装置で足の形を評価し、条件に合う靴を購入した。

だが、肝心の右足小指の付け根の痛みは治らない。佐藤さんはフットケア業者に足を見てもらったところ、「突起物は内反小趾(ないはんしょうし)が原因で、解決にはテーピング施術が有効ではないか」と指摘された。実は佐藤さんは、内反小趾という病名をここで初めて知った。

テーピング施術を行う業者を探したところ、都内に見つけ、そこに通うことにした。週一回テーピングを行い、4日後に取り外して代わりに、五本指のソックスを履く生活を数か月続けたところ、ようやく小指の痛みがなくなった。だが、ここまでたどり着くのに大変な手間と時間、費用がかかった。

必要なのは「部分最適」ではなく「全体最適」

佐藤さんの例では、皮膚科は患部を切除する、靴屋は最適の靴を提供する、インソール店は最適のインソールを提供する、という風に各々が最適のサービスを提供するが、実はそれぞれが「部分最適」にとどまっている。

佐藤さんが本来望んでいるのは、小指の痛みを解決する最適の方策を総合的観点から判断し、最適な解決手段を指示してくれる「全体最適」なのだ。

「全体最適」と「サービス生態系」がシニアの不の解消に役立つ

そして、これを実現するために各々のサービス・シーズがワンストップで揃っている「サービス生態系」が必要だ。

英国には「かかりつけ医(GP: General Practitioner)」という制度があり、国民はまず自分のGPによる診断を受け、その結果、必要な場合に専門的な治療を紹介してもらうようになっている。

佐藤さんの例では医療以外の専門業者が関与するので、GPの例とは異なるが、シニアにニーズの多い足回りの不の解消には、GPのような総合的な判断の出来る機能が強く求められる。今後AIの発達がこうした機能を進化させる可能性があるだろう。

タイトルとURLをコピーしました