朝日新聞 論壇 1999年9月15日
「超高齢社会」が間近に迫っている。2010年になると、わが国は4.5人に1人が65歳以上、さらに年齢の範囲を広げると2.4人に1人が50歳以上となる。
この超高齢社会の健全な発展のためには、介護保険や年金など社会保障の充実だけでなく、新しい成長市場の出現ととらえる能動的な考え方も必要である。
これまで言われてきた「シルバー(高齢者)市場」という概念をさらに広げ、シニア(米国の分類に従い50歳以上の年長者)の段階から、その活力に着目した市場を創り出すことが、超高齢社会に対する備えになると考える。
各種推計によれば、①シニアの九割は介護が不要であり、②シニアの全消費の九割以上は非介護分野である③さらに、団塊の世代がシニアの仲間入りをするなど、シニアの質が変わりつつある。
「アクティブシニア市場」の出現
こうした背景を踏まえると、新しい市場の中核として、まだ介護を要しない元気な年長者を対象とした「アクティブシニア市場」が浮かび上がってくる。
新しい市場をつくるには、その特徴を深く理解する必要がある。この市場の第一の特徴は、他世代の市場に比べ顧客主導の度合いが強いことである。
シニアは一般的に経済的に余裕がある。自分の要求にフルにこたえてくれる良質のトータルサービスなら、高額の出費を惜しまない傾向が強い。
また、人生経験豊富で目が肥えており、あらかじめ商品に関する知識を集め、十分に吟味した上で購入する傾向がある。
例えば、インターネットでの証券取引に必要なソフトを組み込んだパソコンと、投資アドバイスをセットにした商品がシニアによく売れている。豪華客船で世界一周するシニア向け旅行も、一年先まで完売である。
また、オンラインによる個別栄養アドバイスや個人の健康状態に合わせた食事の宅配など、健康に留意するこの世代ならではのサービスもすでに始まっている。
従ってサービス提供者は、①単品ではなく「パッケージ商品」「トータルサービス」の提供、②商品だけでなく、商品に関する比較情報、専門知識に基づく購買アドバイスなどの提供を心掛ける必要がある。
米国で増える先進的な「スマートシニア」
第二の特徴は、インターネットなどの情報技術の普及が大きな影響を及ぼすことである。
居ながらにして情報交換や売買取引ができるインターネットは、実は外出の機会が減りがちな年長者にこそ意味がある。
ネット先進国の米国では、シニアのネット人口が1300万人(ネット人口の16%)に上る。そして、ネットを縦横に活用して情報収集し、積極的な消費行動をとる先進的な「スマートシニア」が増加している。
このスマートシニアは、①日に一度、毎週十時間以上ネットを使う、②若い世代よりネット通販に積極的である、③市場で自分の声を積極的に発信する、という特徴が米国での調査で分かっている。
わが国でもこのようなスマートシニアが増えている。今後、このスマートシニアは先駆的な消費者として多数の一般シニアの消費行動に影響を与え、アクティブシニア市場をリードしていくと推察される。
従って、このスマートシニアが満足する商品・サービスを提供し、さらにはスマートシニア層自体を増やす場を設けることが肝要である。
スマートシニアの育成と退職者の生きがい創出
米国では、シニアネットというNPO(非営利組織)が全米で160ものシニア向け学習センターを運営し、スマートシニアの育成に取り組んでいる。
この運営には様々な工夫がなされている。例えばIBMなどの民間企業から提供されるパソコンを活用したり、自治体の福祉施設を学習センターとして活用したりすることで運営費用を低減している。
また、企業退職者をボランティア指導者として養成し、退職者の新たな生きがいをも導き出している。
このような官民連携によるシニア向け新サービス創出とシニアの人材活用は、わが国でも導入すべき仕組みである。その際、そのノウハウを有する海外の先進的な団体と協働して作業するのが有効である。
今年は国連が定めた国際高齢者年である。単なる親ぼくではない国際的な連携で、わが国でもシニア市場の拡大を図り、来るべき超高齢社会を前向きに迎えたい。