2022年10月28日 日経MJ連載 納得!シニア消費
交流が活発な理由はシニア好みの“鉄板コンテンツ”
IT(情報技術)企業のFCNT(神奈川県大和市)が運営する「らくらくコミュニティ」(らくコミュ)は会員数260万人を有する国内最大級のシニアSNS(交流サイト)だ。
利用者は70代が43%、60代が25%、80代が15%で圧倒的にシニア層が多い。他社のSNSでは20代~40代が多いのと対照的だ。
シニア層が多い理由は、シニア向けの「らくらくスマートフォン」購入者の受け皿として「らくコミュ」をつくった経緯があり、利用者の95%がらくらくスマートフォンを利用しているためだ。
月間アクティブユーザー数が約90万人、一日の投稿数が約5万件というのはかなり活発といえ、そこには理由がある。
人気コンテンツの一つに「みんなで歩こう!秋を感じる花散歩」。その日歩いた歩数を入力し、散歩中に見つけた花の写真をタイトルと共に投稿する。健康意識の高いシニアにとってウォーキングと花の写真撮影は相性が良い。
さいたま市の武藤良子さん(仮名、72歳)は「らくコミュのおかげで花や草木の写真を撮ったり、絵手紙を描いたり、趣味の幅が広がった」と言う。
「俳句コンテスト」も人気だ。俳句のタイトル、季語を含む五七五の句を決められた枠に入力し、背景を選び投稿する。すると画面上に背景と共に縦書きで表示される。この表示形態が日本語特有の俳句らしく評判が良い。
これらのシニア好みの“鉄板コンテンツ”がそろっていることが活発な理由だ。千葉県松戸市の田中仁さん(仮名、77歳)は「既存のSNSだと何を投稿すればよいか迷うが、らくコミュにはいつもテーマがあり、定型に従って投稿すればよいので続けやすい」とのことだ。
フェイスブックやインスタグラムとは違う居心地の良さ
シニア層には既存のフェイスブックやインスタグラムなどが「とっつきにくい」と感じる人が多い。友達申請は受けても、よく知らない人たちとの表面的な交流は好まない。
一方、らくコミュでの対話のペースや共通のテーマで結ばれた人たちとの交流は楽しく心地よい。事務局によれば30人程度の人たちと深くつながる場合が多いという。
また、SNSの運営事務局が24時間投稿を監視しており、個人情報の漏洩防止、誹謗(ひぼう)中傷禁止など利用者間でのトラブル発生を未然に防いでいる。
SNSに慣れていないシニア利用者に安心感を提供していることも、らくコミュが継続的に利用される大きな理由だろう。これはガラケーの「らくらくホン」の時代から続いている設計思想で、既存のSNSには見られない特徴だ。
らくコミュの機能は文化的処方の先駆的なケース
超高齢社会・日本の課題に、高齢者の「社会的孤立」がある。これはうつ病や認知症の要因になり、要介護予備軍の増加につながりかねない。
これに対して、東京藝術大学が美術館や企業などと連携し、社会的孤立の予防策として「文化的処方」という手法の開発に取り組んでいる。文化的処方ではコミュニケーションを誘発する文化体験とそれを高齢者につなぐ「文化リンクワーカー」の役割が重要となる。
らくコミュの機能は文化的処方の先駆的なケースとなり、今後ますます求められていくと思われる。