2022年1月28日 日経MJ連載 納得!シニア消費
シニア消費のカギは、その人にとっての価値の「納得感」
ニッセイ基礎研究所の推計によると、60歳以上の消費総額は100兆円超えに達し、国の22年度予算案の一般会計とほぼ同じ規模だ。新型コロナウイルス感染拡大が収束すれば、シニア層が経済再生の牽引者になるのは間違いない。
シニア消費は多様性が強い。百貨店では高額品が売れる一方、スーパーでは1円でも安い商品が好まれる。一見つかみどころがないように見えるシニア消費のカギは、その人にとっての価値の「納得感」である。
高額でも価値を納得すれば買うが、低額でも安っぽいだけのものは買わない。課題はいかにしてターゲット層の「納得感」をつかむかだ。
最近の良い例がパソコン周辺機器メーカー、バッファローの「ラクレコ」だ。この商品はCDの楽曲を、パソコンを経由せずに簡単にスマホに取り込んで再生できる。21年6月の発売後、じわじわと人気を博し、22年1月時点で販売前想定の4倍程度の引き合いがあるとのことだ。
ラクレコが受けた理由とは?
CDからスマホへの楽曲取り込みは、パソコンでデータを取り込んだ後、パソコンとスマホのデータを同期させる必要があった。
パソコンを日常的に使う人には大した作業ではないが、パソコンを持っていない、あるいは操作が苦手の人にはハードルの高い作業だった。こういう人は実は50代後半から60代の主婦や退職者に多い。
これらの人も外出先で音楽を聴く時にはスマホを使いたい。ただ、音楽サブスクだと最新楽曲や未解禁アーティストの楽曲が聴けないことも多い。
デジタルに疎い一部の主婦や退職者は有料の音楽サブスクより、手持ちのCDかレンタルCDをスマホに取り込む方が安上がりだと思っているようだ。一方、これらの人はCDからスマホへの楽曲取り込みを子供に頼むことが多いが、子供が忙しい時は面倒臭がられる。こうした背景から「CD楽曲を自分で簡単に取り込めたら・・・」という潜在ニーズがあったのだ。
取り込み作業は3ステップでかなり簡単だ。ラクレコとスマホとの接続はWi-Fiで可能のためスマホを充電しながら楽曲の取り込みもできる。曲名やアーティスト名などのアルバム情報や歌詞もネットから自動取得され、従来手入力していた人には好評だ。
眠らせていたCDが蘇って人生が豊かになる、という価値
ラクレコのような「ありそうでなかった」商品が出現すると想定外の需要が生まれる。例えば「カラオケの練習用に使っている」との声がシニア層から上がっている。コロナ下でカラオケに行けない時の代替手段だ。
実店舗のCDショップから「CDと一緒に売りたい」との声もある。筆者も含むCD世代の人は自宅に数多くのCDを持っている。ラクレコをきっかけに眠らせているCDをよみがえらせ、音楽を楽しむ生活を取り戻してほしい。そんな主張を感じさせる製品だ。