高齢者住宅新聞連載 村田裕之の「シニアビジネス相談室」第52回
トリセツが見づらいと製品イメージが悪くなる
先日、あるメーカーの血圧計を買ったところ、付属の取扱説明書を見て愕然としました。説明の文字がかなり小さく、フォントの色も薄い灰色で読みづらく、当該メーカーに対するイメージが悪くなりました。
血圧計のような商品の買い手は大半が私のようなシニア予備軍以上の中高年のはず。製品は悪くないのに、それ以外のところで機会損失を発生しているのです。
シニア向けの商品開発で、かつて私が関わったものにNTTドコモの「らくらくホン」があります。これは当時世界初のシニアにやさしく、使いやすい製品という設計思想でつくられていました。
ところが、残念なことに当時の取扱説明書のなかには「らくらく」とは言い難いものもありました。サイズが小さく、分厚く、字が小さい。
使い方を調べようと思っても、説明箇所に行き当たるのが困難。製品は「らくらく」なのに、取扱説明書は頭が「クラクラ」する代物でした。
こうしたことが起こる原因は、製品づくりが細かく分業され、全体をプロデュースする機能が弱いためです。製品づくりと取扱説明書づくりを統一して品質管理していないため、こうしたちぐはぐなことが起きてしまうのです。
別の言い方をすれば、真の意味で利用者の立場でモノづくりをしていないということです。
トリセツは必要最少限がよい
これと対照的な製品がiPhoneです。取扱説明書は数枚で、必要最少限の説明があるのみです。(字が小さく読みづらいのは感心しませんが)
しかし、製品を使ってみるとその理由がわかります。取扱説明書を読まなくても、実に簡単にいろいろな機能を使えるように設計されています。
iPhoneを含むアップル製品は、すべてこうした思想で設計されています。それが、アップル製品が多くの人に支持される理由でもあります。
似たような事例として家具のIKEAがあります。IKEAで売っている家具の取扱説明書も必要最小限で、イラストを多用し、文章による説明が最低限度にされています。
このメリットは、イラストの意味が通じれば、言語に依らず世界中で販売できることです。