これまで多くの企業が団塊世代やシニア世代をターゲットとして、さまざまな会員制サービスを立ち上げている。その一方で、会員制サービスを立ち上げても会員が思うように増えない、という苦戦事例も多い。たとえば、次から次へと登場するクレジットカードは、その典型である。最初は初年度会費無料キャンペーンなどで会員をかき集めるが、2年目以降、会費が有料になった途端、解約が続出するのが実態だ。
モノが乏しい、貧しい時代には、品数が多いほうが喜ばれた。百貨店などはその名のとおり「百貨」品物があることが売りだった。しかし、モノがあふれる現代は単に品数が多いだけではもはや差別化にならない。
クレジットカードにいたっては、最近では会費が初年度だけでなく、永久無料というのもかなり増えた。会費を永久無料にし、ロードアシスタンス・サービスや海外旅行保険などもすべて付帯したうえで、マイレージサービスや電子マネーが使えるかどうかなどがクレジットカードの顧客獲得競争の主戦場になっている。
しかし、こうした付帯サービスの数や量で競合他社より優位に立てる猶予時間は、そう長くはない。なぜなら、市場の情報化が進展し、競合同士が真似しあうインターバルが、ひと昔前に比べて、どんどん短くなっているからだ。
この結果、どの会員制サービスも、短期的にはいろいろな面でサービス内容に差があっても、中長期的には「互いに似たような」サービス内容になっていく。会員制サービスで苦戦している事例に共通しているのは、その背景に「いかに顧客を囲い込むか」という発想があることだ。実際、私も「お金と時間に余裕のあるシニア顧客を会員制サービスで囲い込みたい」という相談を受けることが多い。
しかし、この類の話でうまくいった例はほとんどない。その最大の理由は、「囲い込み」という言葉に潜む売り手の論理が、顧客のニーズと相容れないからである。
そもそも、顧客の「囲い込み」とは何か。多くの場合、会員制サービスやハウスカードなどの会員になってもらうことを指すようだ。ところが、カードの会員になったからといって、「囲い込まれている」と思う人は、ほとんどいない。利用者は、利用メリットに応じて複数のカードを使い分けているだけである。
売り手が「囲い込んだ」つもりになっても、「ザル」のようにすり抜けられているのが実態だ。そもそも、売り手に「囲い込まれたい」と思う人はほとんどいない。特に年配層は、この類の「売らんかな」の姿勢に敏感だ。「囲い込む」という売り手側の意図が見えた瞬間、買い手側は興ざめし、引いてしまうのが普通である。「囲い込む」という発想が、顧客の気持ちを遠ざける。
むしろ、本当に価値あるものを提供し、その価値が認められれば、無理やり囲い込もうとしなくても、顧客のほうから自然に何度も声がかかるものである。