よくわかるエイジテック:そもそもの定義と背景、日本の市場規模

CESでのAARPによるエイジテックブース 海外動向
CESでのAARPによるエイジテックブース

シルバー産業新聞 連載「半歩先の団塊・シニアビジネス」第202回 

大雑把過ぎてわかりにくい「エイジテック」という言葉

ここ数年、「エイジテックについて取材したい」「エイジテックについての解説記事を書いてほしい」などのリクエストを時々受ける。だが、正直あまり気が乗らない。理由はエイジテックという言葉があまりに大雑把過ぎて、面白くないからだ。

にも関わらず、テレビ局や出版社などから相変わらず似たようなリクエストを受けるのは、エイジテックに関するアメリカ発の情報が多いためと思われる。

そこで、本稿では数回に渡って、大雑把でわかりにくい「エイジテック」と言う言葉の元々の定義をレビューし、私が考えるエイジテックについての意見を述べることにする。

アメリカ発の「エイジテック」の定義とは?

エイジテックとは、英語でAge-techと表記する。この言葉が最初に知られるようになったのは、アメリカの経済誌Forbesの2019年2月1日号で取り上げられてからと言われる。その時の定義は次の通りだ。

Age-Tech is about digitally-enabling the longevity economy. 

直訳すれば「エイジテックとは、デジタル化で可能となる長生き経済のこと」となる。

longevity economyとはアメリカで時々見られる表現だ。longevityは、寿命や長生きの意味なので、longevity economyは「長生き経済」となる。これは日本とアメリカ以外で使われている言葉では「シルバー経済(silver economy)」となる。

ただし、この定義では、テック=技術なのに、エイジテック=長生き経済となっているところに違和感がある。

何でもエイジテックになってしまう危うさも

2022年1月に出版されたKaren Etkinの「Age-tech Revolution」という著書によれば、エイジテックは次の通りに定義されている。

Age tech is digital tech that’s built around the needs and wants of older adults, while including them in the design process.

高齢者のニーズやウォンツに応えるデジタル技術(デザイン過程も含む)

In the broader sense, Age tech could be any type of technology that improves the lives of aging adults.

広義には高齢者の生活の質を改善するあらゆるタイプの技術

どちらの定義も「技術」に重きを置いている点に注意したい。だが、後者の定義だと大雑把過ぎて、「何でもエイジテック」となる印象を受ける。こうした言葉を広めたい人は、こんな風に言いたがるのだろう。

エイジテックは本来Aged-tech:technology for aged (高齢になった人向けの技術)

ちなみに、アメリカではAgeと言う言葉を「高齢者の」意味で使うことがある。例えば、ボストンにあるMIT(マサチューセッツ工科大学)の高齢者研究所の名称は「Age Lab.」だ。

Ageは本来「年をとる・齢を重ねる」と言う意味の動詞なので、エイジテックはAged-tech:technology for aged (高齢になった人向けの技術)と表現すべきだが、語呂が良いのでAge-techとしていると思われる。

エイジテックと似たような表現にフィンテック(Fin-Tech)という言葉がある。これは「技術で可能となる金融」という意味で、金融業界・IT業界がここ数年使っている。

デジタル技術の進展で、電子マネーが比較的安全に使えるようになり、貨幣や紙幣の代わりに電子マネーを使う人の割合が飛躍的に増えた。技術の発展が金融サービスを変えたと言える。エイジテックも、これと同様の発想で作られた言葉と言ってよい。

「日本のエイジテック市場」の規模はどのくらいか?

この質問もよく尋ねられるが、前述の通り、定義が大雑把なので市場規模の推定ができないのが現状だ。一方、先のForbesの記事に次の記載があり、数値が独り歩きしている面がある。

Global Aging Economy will reach $27 trillion in 2025, with digitization at 10%, Age-Tech potential of $2.7 Trillion by 2025.

2025年の世界の高齢者市場が27兆USドルに達すると予測され、その10%がデジタル化されるとすれば、エイジテック市場規模は2025年までに2.7兆USドルの可能性がある。

仮にこの計算方法にならって同様に計算すると、ニッセイ基礎研究所によれば日本の60歳以上の市場規模は2025年で108兆円なので、日本のエイジテック市場規模は2025年で10.8兆円(US$150円とすれば、72億US$)となる。

この数値を見るとかなり大きいように思われるが、これを以て「日本のエイジテック市場の潜在力は巨大」と言うのは短絡的過ぎるだろう。

誰に対して、どういう技術を、どのように利用するか、いくらで提供するかで求められるニーズや需要は大きく変わるからだ。

かつて1992年頃、日本でマルチメディアブームが起きた際、某シンクタンクが「マルチメディア市場は123兆円」とぶち上げたところ、しばらくその数値が独り歩きしたことがある。

こうした数値の一人歩きがよく見られるのは、何の根拠も精査することなく、他人の数値を鵜呑みにする人が多いことによる。エイジテックについても、ネット上にこうした数値があふれているので注意深く見ることをお勧めする。

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