高齢者住宅新聞連載 村田裕之の「シニアビジネス相談室」第15回
売りたい商品を顧客に提示して顧客の反応を直接知れ
一番良いのは、その会社の社員が、売りたいターゲット層と直接のコミュニケーション機会を持つことです。
そうすれば調査会社によるアンケートなどでは見えてこないターゲット層の考えていることが、皮膚感覚ではっきりと分かってきます。
この事を私自身の体験を例にお話ししましょう。
私はかつて高級老人ホーム販売のために営業最前線にいたことがあります。見学に訪れたシニアの方々からは「ここはとても素敵。ぜひ入居したいわ。」との好感触のお言葉を頂きました。見学会では終始ご機嫌の様子で、アンケートへの回答内容もきわめて前向きでした。
ところが、いざ具体的な商談の場になるや急に歯切れが悪くなるのです。
後でこっそりと事情を伺うと、予算の問題や家族関係の問題などで、どうしても買えないと呟かれる。高額商品ほどそうした傾向が強く、実は見学会でのアンケートの回答はほとんど当てになりません。
シニアのニーズ把握の究極は「人間を知る」こと
そのような場合でも、その人の家族構成から、どういう可能性があるかを想像し、たとえば息子や娘との間での確執、あるいは夫との関係が不和である場合なども念頭においた周到な対応策を提案すれば、そうした姿勢に心打たれて、契約に踏み切るかもしれません。
シニアの年齢層なら、誰でも何らかの生活上の課題を持っているのが普通です。家族との確執、自分自身や家族の病気、相続トラブル、孤独など。
そのような人の気持ちの機微が常識として分かっていなければ、彼らの消費行動を理解することは到底できません。
60歳代、70歳代の人は、どういう風に世の中を見る傾向があるのか?後半生の人間関係の作り方にはどういう傾向があるのか?など、いろいろあります。
そうしたことを理解するために何が必要かを突き詰めると、究極は「人間を知ること」に行き着きます。
そのためには「シニア人間学」とでも呼ぶべき、高齢期の人間に対する深い理解と思いやりのある眼差しが不可欠なのです。