2023年7月28日 日経MJ連載 納得!シニア消費
気に入ったデザインの靴なら、若い頃は多少つま先が窮屈でも我慢して履いていた。だが、歳をとるにつれ足の痛みに耐えられず、お洒落な靴を履くのをあきらめていた—。
こういう不具合を解消して中高年女性から好評なのがクレッセント(大阪市)の婦人靴シリーズ「サロンドグレー」だ。
購入者は累計100万人以上。年齢層は50歳以上が約60%、性別はほぼ女性だ。この製品の何が中高年女性に受けているのか。
人気の理由1:足にフィットする履き心地と着脱が楽なこと
理由の1つ目は、足にフィットする履き心地と着脱が楽なこと。東京都の山本節子さん(52歳、仮名)は、「とにかく革がやわらかくて足になじむところが気に入っている。着脱が簡単なので靴の脱ぎ履きに手間どらないのもいい」と言う。
一般に木型でつくる革靴は利用者の足にぴったり合うのは100人に一人と言われる。
だが、サロンドグレーの靴は独自の素材と加工によりやわらかく伸縮するため、履けば履くほど利用者の足になじんでいく。
この特性が履いた時の痛みを嫌う中高年女性に評判が良い。
人気の理由2:お洒落なデザインと素材の上質感
理由の2つ目は、お洒落なデザインと素材の上質感。大阪府の佐藤和子さん(68歳、仮名)は、「久しぶりに食事会に出掛けたら『素敵な靴ね』とほめられた。歩くたびにキラキラと光る靴はウエートレスも注目するくらい目立っていた」とほほ笑む。
サロンドグレーは量産品とは異なり、熟練の職人たちが技を駆使してひとつひとつ丁寧に作り上げる。軽くて柔らかな天然皮革に加え、裏材や中敷きの素材選びも厳選して行っている。利用者はこうした“こだわり”を随所に感じる。
人気の理由3:メイド・イン・ジャパンへの信頼が厚いこと
3つ目の理由は、メイド・イン・ジャパンへの信頼が厚いこと。兵庫県の合田美那子さん(65歳、仮名)は、「気に入った靴は修理しても長く履いていたい。サロンドグレーの靴は日本製なので修理・メンテナンス体制がしっかりしていて安心」と言う。
一般に婦人靴の生産は労働集約型のため、労賃の安い海外製が多い。これに対してサロンドグレーは靴作りの全工程が自社で一貫生産されている。日本人のきめ細やかなものづくりの姿勢や技術が利用者からの信頼を得ている。
コロナ禍で新たな市場開拓が重要に
一方、新型コロナウイルス禍で明らかになったように、外出機会が減ると婦人靴の需要は減る。このため、新たな市場の開拓が重要となっている。
神奈川県鎌倉市の大川美千代さん(54歳、仮名)は、「老人ホームに入居した85歳の母親にサロンドグレーの赤い100年シューズをプレゼントしたら、大変喜ばれた。その靴は老人ホームの他の入居者に大評判で母の部屋に靴を見に大勢やって来た」とのことだ。
いくつになってもお洒落をしたい女性にデザインと履き心地を両立
拙著「成功するシニアビジネスの教科書」で述べた通り、介護用品や福祉用具は、概して商品にファッション性が乏しく、改善の余地が多い。
高齢者向けの靴も同様だ。滑りにくい、着脱しやすい、足に負担が少ないなどの機能優先で、お洒落にはほど遠いものがまだ多い。実はこれが潜在顧客の購買意欲を萎えさせ、機会損失になっている。
女性はいくつになってもお洒落をしたい。その気持ちに寄り添うデザインと履き心地を両立した製品が求められていることをサロンドグレーは再認識させてくれる。