高齢者住宅新聞連載 村田裕之の「シニアビジネス相談室」第59回
コロナ禍でシニア向けVRサービスが増えているが・・・
コロナ禍以前に旅行市場をけん引していたのは平日でも自由に行動できるシニア層でしたが、コロナ禍の外出自粛で市場が激減しました。国内旅行市場は回復の兆しが見えますが海外旅行市場の回復にはまだ時間がかかりそうです。
こうした背景でシニア向けに仮想現実(バーチャル・リアリティ、VR)を使った旅行サービスがいくつか登場しました。
あるサービスでは利用者が行きたい場所を指定すると、業者が現場まで赴き、360度の写真を撮影してデータを送る。ヘッドセットを着用した利用者は自宅にいながら行きたい場所の風景を楽しめる、という具合です。
また、VRによる墓参りサービスも出現しました。依頼があると業者が墓の周辺の風景や、墓参り前後の様子などを撮る。利用者は自宅で自分が墓参りをしているような感覚を体験できるといいます。足腰の弱った高齢者にはコロナ禍と無関係に便利そうに見えます。
なぜ、VRではリアリティを感じないのか?
しかし、こうしたサービスで本当に「現実感」を感じられるでしょうか。
一度でもヘッドセット型のVRを体験した人はお分りだと思いますが、実物らしさ、リアリティとは程遠いのが実態です。
理由はヘッドセット装着による圧迫感とディスプレイ画質の低さです。しばらく装着すると車酔いの感覚になり、装着が苦痛になる人も多いです。
2018年に公開され大ヒットした映画「ボヘミアン・ラプソディ」を見た人の多くは「ライブの熱気であたかも会場にいるかのように感じた」と言います。実は臨場感を感じる最大の理由は、ヘッドセットによる拘束がなく「大画面・高画質」で画像を見るからです。
VRでない2次元画像でもリアリティは感じられる
さらに高解像度のIMAXシアターで見た人は、通常の劇場よりもはるかに迫力を感じたと言います。人間は視野角が一定以上の大きさになると、2次元画像でも3次元画像のような臨場感を感じるからです。
高齢者をターゲットにVRを用いたサービスが散見されますが、VR機器を使えばリアリティを感じられるというのは幻想です。
現状のヘッドセットの装着感の大幅な改善やヘッドセットを必要としない商品開発が今後のブレークスルーのカギでしょう。