高齢者住宅新聞連載 村田裕之の「シニアビジネス相談室」第73回
シニア向けアンケートは設問のデザインで信憑性が下がる
シニアビジネスの黎明期の2000年頃から、シニア向けアンケートビジネスというのが存在します。シニアを対象にメールで呼びかけ、サイトでアンケートに回答してもらい、回答内容をスポンサー企業に渡して対価を得るものです。
しかし、このやり方で得られる回答の信憑性の有無を認識せずに実施している例が後を絶ちません。
本連載第58回でアンケート調査の信ぴょう性が下がる次の2つの場合①未経験なことへの「意向」を尋ねる場合②回答の選択肢に自分に合う表現がない場合を説明しました。
同じ人でも回答時の心理状態で回答内容が異なる
今回はさらに別の場合を取り上げます。例えば「あなたは海外に数か月滞在するロングステイをしてみたいと思いますか?」という設問の場合、
「ニュージーランドのロングステイに関する楽しい体験談の記事を読んで、ロングステイへの期待感をもっているとき」と、
「ニュージーランドでロングステイをしている人が事件に巻き込まれたニュースを聞いた直後」では、同じ回答者でも回答が異なるということが起きます。
思考過程における「無意識」の働きを理解せよ
こうしたことが起きる理由は、私たちの思考過程における「無意識」の働きにあります。
私たちは、モノやサービスを買うときの意思決定を、自分の意識の下で行なっていると思っています。ところが、近年の脳科学の研究によれば、人の思考過程のおよそ95パーセントは無意識のうちに起こると言われています。
私たちは、多くを意識的な意思決定に基づいて行動しているように思っていますが、実際には無意識的な行動の方が意識的な行動よりもずっと早い段階で行われているのです。
例えば、事前のアンケートでは「価格が40万円までならロングステイに行ってもよい」と回答しても、実際に説明会で話を聞いた後には、価格が40万円以下でも購入しない、ということが起こるのです。
アンケートに回答したときと説明会で話を聞いたときとで、何らかの理由で心理状態が異なっているからです。
実はこれは高齢者住宅の営業の現場でもよく起こることです。