「顧客を囲い込む」という発想を捨てる

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でんかのヤマグチ営業車

高齢者住宅新聞連載 村田裕之の「シニアビジネス相談室」第30回

シニア顧客を会員制サービスで囲い込みたい、という相談が多い

企業の担当者から「お金と時間に余裕のあるシニア顧客を会員制サービスで囲い込みたい」という相談を受けることが時々あります。

しかし、この類の話でうまくいった例はほとんどありません。その最大の理由は「囲い込み」という言葉に潜む売り手の論理が、顧客のニーズと相容れないからです。

そもそも、顧客の「囲い込み」とは何でしょうか。多くの場合、会員制サービスやハウスカードなどの会員になってもらうことと考えている方が多いようです。

ところが、当の利用者は利用メリットに応じて複数のサービスやカードを使い分けているだけです。売り手が「囲い込んだ」つもりになっても、「ザル」のようにすり抜けられているのが実態です。囲い込みというのは、売り手の「幻想」に過ぎません。

量販店の2倍の値段でもテレビが売れる理由は?

東京・町田にある「でんかのヤマグチ」は従業員40人、周囲に6店の家電量販店に囲まれながら黒字を維持している家電店です。

この店の特徴は、ものを「高く売る」。たとえば、テレビは一般的な量販店の2倍の値段でも売れます。

その秘密は、顧客を町田市内の高齢者に絞り込み、徹底した顧客サービスを行うことにあります。テレビとレコーダーを買ってもらったら顧客の自宅まで届け、配線して設置する。

電球1個でも交換の依頼があれば、すぐに顧客宅に行き、交換する。顧客の留守の間に郵便物を受け取ることもあります。

「囲い込む」のではなく「駆け込み寺」になる

顧客に困りごとがあったら、1分でも早く駆けつけ、とことん手助けをする。この積み重ねで、顧客から深い信頼を得ると、多少高くても本業の家電製品を高く買ってくれるのです。

つまり、顧客の囲い込みではなく、顧客にとって最初に声をかけられる「駆込み寺」になっているのです。

今後は高齢化のさらなる進展で「駆込み寺」に駆込めない人が増えていきます。このため、駆込み寺の機能を持つ人が、顧客の自宅に出向く「出張駆込み寺」が求められていくのです。

この記事を書いた人
村田 裕之

村田アソシエイツ株式会社代表取締役、東北大学加齢医学研究所スマート・エイジングセンター特任教授

日本の中高年向け事業開発プロデューサー、起業家、社会学者。専門は中高年を対象とした事業開発と消費行動分析、日本と諸外国の高齢社会研究、スマート・エイジング論など。

1999年に日本で初めて「アクティブシニア市場」の重要性を指摘し、情報武装した高齢者「スマートシニア」の出現を予言した。2004年に「シニアビジネス」という言葉を初めて公に提唱し、女性専用フィットネス「カーブス」の日本への紹介、NTTドコモ「らくらくホン」の商品開発支援、関西大学とのカレッジリンク型シニア住宅の創成など、950以上の企業の事業開発に携わっている。日本におけるシニアビジネス分野の第一人者として知られている。

2006年に東北大学からの依頼でスマート・エイジングのコンセプトを提唱し、2009年10月東北大学スマート・エイジング国際共同研究センターの設立に参画。スマート・エイジング・カレッジを11年間主宰し、市民の健康リテラシーの向上とのべ406社との産学連携を推進してきた。

シンガポールに拠点を置く Asia Pacific Eldercare Innovation Awardsにより2018年5月に「Global Ageing Influencers」に、2024年5月に「Super Ageing Japan Outstanding Entrepreneur(スーパー・エイジング・ジャパン卓越起業家)」に選ばれた。

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