2024年2月23日 日経MJ連載 納得!シニア消費
利用者の年齢構成は80代が25%、70代は35%、60代は20%
年齢を重ね、身体が変化すると、特に女性には衣類に対して若い頃とは異なるニーズが生まれる。アパレルメーカーの美光(東京・江戸川)は、「癒(いや)しの工房」と呼ぶ製品シリーズで、こうした女性の心をつかんでいる。
利用者の年齢構成は80代が25%、70代は35%、60代は20%。70歳以上で60%、60歳以上だと80%にも及ぶ。なぜ、これほどシニア女性に受けているのか、同シリーズの人気商品でひもといてみる。
累計320万枚「のびのびショーツ」体型変化にフィットする伸縮性と抜群の肌触りのよさ
1つ目の商品は、累計320万枚以上売れた「のびのびショーツ」。岡山県の大森良子さん(仮名、72歳)は「よく伸びて、お尻もしっかり包んでくれて、ゴムも柔らかく、色も気に入っている」と言う。東京都の石澤光さん(仮名、65歳)も「縦、横、マルチに伸びてとてもはきやすい」と話す。
一般に女性は年配になるとゴムによる締め付けを嫌う人が多い。ただ肌にきちんとフィットしないと不快感がある。
のびのびショーツは通常のショーツの倍近い糸を使う。クモの巣にヒントを得たという特殊な編み方を採用。手間をかけて編み上げ、しなやかな伸縮性と抜群の肌触りのよさを実現。これが多くのシニア女性に支持されている。
累計20万枚「シルク混さらさらブラキャミソール」 肌にべたつかず、着心地がよく、長持ち
2つ目は、累計20万枚以上売れた「シルク混さらさらブラキャミソール」。東京都の宗像玉枝さん(仮名、68歳)は「肌触りがとても良い。洗濯しても型崩れしにくいので重宝している」と言う。
綿だけだと肌にべたつくが、シルクを15%混ぜることで、真夏でもさらっとして着心地がよくなる。高級感も出て、長持ちする点も評判が良い。
累計15万枚「2重ガーゼ 胸タックパジャマ」 入院や介護施設での不具合をエレガントに解消
3つ目は、累計15万枚以上売れた「2重ガーゼ 胸タックパジャマ」。大分県の窪田清美さん(仮名、68歳)は「胸元が2重ガーゼで隠せる用に工夫されており、長年愛用している」と言う。
山形県の本間佳子さん(仮名、80歳)は「袖口、足口にゴムが入っていたので、入院時に空調が寒い時に風が入りにくく、とても重宝した」と話す。
高齢になると、入院や介護施設への入居機会が増えることで様々な不具合が発生する。こうした「不」をエレガントに解消している点が受けている。
コールセンターを持たず、全社員が顧客に電話対応する
美光はこれらの商品開発のための顧客ニーズをどのように吸い上げているのか。最も多いのは、電話でのコミュニケーションだ。60代以上の顧客からは電話での注文・問合せが多いからだ。
興味深いのは、コールセンターを持たず、全社員が対応する点。一見、機能的でないように見えるが、全社員が常に顧客と接する機会があることで、商品開発や販売の質の向上につながっている。もちろん、顧客からの声は一元管理されている。
「不の解消」の原動力は精緻なモノづくりができる技術力、品質力、そして顧客への共感力
私はシニアビジネスの基本は「不の解消」だと言い続けてきたが、美光はその実践者だ。だが、それを可能とするには、精緻なモノづくりができる技術力、品質力、そして顧客への共感力が不可欠だ。
美光の田中秀治社長は「弊社は単に商品を売るだけの会社では無く、温(ぬく)もりのある人間の優しさを顧客に届ける会社」だと強調する。
メイド・イン・ジャパンを通して、顧客の細やかなニーズと職人の匠の技をつなぐ美光の取り組みは、高齢化が進む諸外国からも一目置かれ始めていることに注目したい。