シルバー産業新聞 連載「半歩先の団塊・シニアビジネス」第200回
家族との同居・別居で変わるペットの家庭での役割
特集第2回は、疑似家族としてのペットに焦点を当てる。日本のペット市場の大半が犬と猫なので、以降、この2つを前提に話を進める。
家庭におけるペットの主な役割は、家族と同居している場合と、家族と別居している場合とで異なる。
前者の場合、ペットは同居している人どうしの精神的な「クッション役」となることが多い。
例えば、夫婦間・親子間でケンカをした時、嫁と姑とが気まずい雰囲気になった時など、当事者どうしで緊張状態になった時に、口答えしないペットがいることで気持ちが和らいだり、場の雰囲気が変わったりする。
後者の場合、ペットは「家族の代わり」となる。子供の巣立ち、配偶者との別離による寂しさを解消するため、ペットは代替家族またはパートナーとしての役割を担う。生涯独身の単身世帯にも、人ではなく、ペットをパートナーにする例が多い。
ペットが家族同然になれる飼い主側とペット側の理由とは
そもそも、なぜ、犬と猫は家族同然になれるのか。これには飼い主側とペット側とに理由がある。
飼い主側の理由は、子供の巣立ちをきっかけに、家族構成が小家族化・単身世帯化して家族との「触れ合い」の機会が減り、その反動として家族との「愛着形成」機会を求めることにある。
元々愛着は、赤ちゃんや子どもが養育者に働きかけ、養育者がそれに応えることで形成される。赤ちゃんや子どもの働きかけを心理学用語で「愛着行動」と言うが、養育者の行動と合わせて愛着は形成される。
齢を重ねるにつれ、かつて愛着形成の対象だった子供や孫との触れ合い機会はどんどん減る。すると、子供や孫以外の「何か」に愛着形成の行動を取りたくなり、それがペットに向けられると言える。
一方、ペット側の理由は、特に犬は人間との間で「愛着形成ができる能力」を持っていることだ。
愛着形成で分泌される愛情ホルモン「オキシトシン」
オキシトシンとは、脳の下垂体によって産生されるホルモンの一つだ。出産時に子宮を収縮させて陣痛を促し、母乳分泌を促す作用がよく知られており、「愛情ホルモン」とも呼ばれる。
オキシトシンは社会的な「絆」を深める働きを持つホルモンであることもわかっている。親子やカップルなど親しい関係で手をつなぐ、ボディータッチをする、ハグをするなどのスキンシップで分泌され、オキシトシンが増えると愛情や信頼感が増して、絆が強まる。
人と犬が見つめ合うと、人と犬の双方にオキシトシンの分泌が増える
実は、こうした愛着形成の行動でオキシトシンの分泌が増えるのは人間だけではない。
麻布大学の研究チームが2015年に発表した論文によれば、人と犬が視線を合わせて見つめ合うと、人と犬の双方にオキシトシンの分泌が増えることが明らかになっている。
オキシトシンが沢山分泌されるほど愛着が増す。するとオキシトシンがさらに分泌される。ペットと飼い主の関係が良好であるほど、オキシトシンが沢山分泌され、絆が強まると言える。
猫を撫でる行為でも、撫でる人にはオキシトシンが分泌するとされる。ただ、撫でられた猫がオキシトシンを分泌するかはまだ不明だ。犬に比べて猫の研究データは少ないため、今後の研究に期待したい。
犬を飼うことが認知症発症リスクの低減にもつながる
つい最近、東京都健康長寿医療センターの研究チームが、犬を飼っている高齢者は飼っていない人に比べて認知症の発症リスクが低いという研究結果を発表した。
調査は、東京都の65歳以上の男女1万1194人を対象に、2016年から20年までのデータを分析。4年間で認知症を発症した人は5%で、犬を飼っている人は飼っていない人に比べ、認知症になるリスクが40%低かったとのことだ。
さらに犬を飼っている人のうち、運動習慣がある人や、社会的に孤立していない人の方が、発症リスクが低い傾向にあるとのことだ。
超々高齢社会における疑似家族としてのペットの役割はますます重要になると言えよう。