シルバー産業新聞 連載「半歩先の団塊・シニアビジネス」第226回
「新NISA」の開始により資産運用への関心が高まっているが、そこには意外な「壁」が存在する。それは、単なる投資知識の有無ではなく、ネット証券を使いこなすためのITスキル、すなわち「デジタル金融格差(デジタル・ファイナンシャル・デバイド)」だ。
地域間で最大2倍ものNISA開設率の差が生じている現状において、その格差を埋める担い手として期待されているのが地域のパソコン教室だ。
本記事では、デジタル金融格差の実態を解説し、教育事業者が法的なリスク(金融商品取引法への抵触)を回避しながら、いかにして受講生の資産形成をサポートできるのか、その具体的な境界線と対策を解説する。
NISA開設率は東京と青森で格差2倍
前回述べた通り、政府・日銀は、今後のインフレ率目標を年2%としている。仮にこれを基準として今後の物価上昇率の変動を勘案すると、保有金融資産は利回り年4%以上で運用するのが望ましい。
その代表的手段が2024年1月に大幅に改正されたNISA(少額投資非課税制度)だ。この改正によって、NISA利用者は急増した。
だが、今年1月11日付日経新聞によれば、NISAの人口比開設率は、東京都の32%に対して最下位の青森県は15%と差がある。青森以外でも東北以北が下位になっており、都市部と地方との格差が大きい。
一方、見方を変えると、最上位の東京都ですら、まだ68%がNISA口座を開設していない。NISA利用格差は都市部でも存在しているのだ。
広がる「デジタル金融格差」
かつてIT機器の普及に伴い「デジタル・デバイド(デジタル格差)」が広がると言われてきた。
いま新たに広がりつつあるのは「デジタル・ファイナンシャル・デバイド(デジタル金融格差)」だ。
この意味はデジタル技術の利用格差が金融リテラシーの格差になり、金融資産の格差につながることだ。
したがって、この格差の解消に大きな社会的ニーズがあり、新たな事業機会があると思われる。
デジタル金融格差対象者の共通の特徴
デジタル金融が不得手な人の共通の特徴は、おおむね次の通りだ。
1.パソコンを使わない、あるいは持っていても操作が苦手
2.スマホは使えるが金融サービスでの利用は少ない
3.金融資産の保有は預金が大半
4.投資経験はなく、投資は危ないと思っている
これらの人が格差を解消するには、次の能力が必要だ。
(1)パソコンやスマホでネット証券・銀行を扱える
(2)必要な情報をネットで探索し、入手できる
(3)保有の金融資産を利回り年4%程度で運用できる
(3)のための指南は、銀行や証券会社など、いわゆる金融商品取引法(金商法)で扱われる事業者の領域だ。
デジタル金融格差解消の担い手は地域のパソコン教室
一方、(1)と(2)のための指南は、パソコン教室やスマホ教室などで可能なはずだ。パソコン教室等でネット証券の使い方を教えること自体は、「操作方法」に徹するのであれば法的に問題はない。
ところが、一歩踏み込んで「どの銘柄がいいか」「今買うべきか」といった助言をしてしまうと、(3)の領域になり、金商法に抵触する恐れがある。トラブルを避け、安全に指南するための要点は次の通りとなる。
やっていいこと(操作説明)
パソコン教室の範疇として、次の「仕組み」や「使い方」を教えるのは問題ない。
- 口座開設の手順: 本人確認書類のアップロード方法や、入力フォームの書き方。
- 画面の見方: チャートの出し方、損益状況の確認画面の出し方。
- 注文操作の練習: 「買いボタン」や「売りボタン」がどこにあるか、指値・成行などの用語の意味。
- セキュリティ設定: 2段階認証の設定方法やパスワードの管理。
やってはいけないこと(投資助言)
次の行為は、金融商品取引業者として国からの登録を受けていない人が行うと違法になる可能性が高い。
- 銘柄の推奨: 「この株は上がりますよ」「A社の投資信託がお勧めです」と助言すること。
- 売買のタイミング指導: 「今が買い時です」「もう売ったほうがいいです」と指示すること。
- 投資判断の代行: 受講生の代わりに注文ボタンを押したり、パスワードを預かって操作したりすること。
トラブルを防ぐための対策
もし、パソコン教室等で教える場合は、次の3点を徹底することだ。
- 「投資助言は行わない」旨を明示する: 「当教室ではパソコンの操作方法を教えるものであり、投資の成果を保証したり銘柄を推奨したりすることはありません」という免責事項を契約書や案内に記載する。
- デモ画面や一般的な例を使う: 特定の銘柄ではなく、日経平均などの指数や、架空の銘柄(または誰もが知っているような大型株を例にするだけ)に留め、「あくまで操作の練習」であることを強調する。
- 自己責任の原則を伝える:「投資は自己責任であること」「元本割れのリスクがあること」を受講生にしっかり理解してもらうことが大切だ。
結論として、 「マウス操作やスマホアプリの動かし方を教えるITスキル教育」というスタンスを崩さなければ、非常に喜ばれる講座になるだろう。



