シルバー産業新聞 連載「半歩先の団塊・シニアビジネス」第220回
生協とスーパーは小売業コンバージェンスの典型
以前は、それぞれ別の業態だったスーパー、コンビニ、ドラッグストアが、互いに似たような品揃えになり、境界が不鮮明になってきた。
このように、元々は違ったものが、互いに似てくることを「コンバージェンス(Convergence)」と言う。
今回は生協(生活協同組合)を取り上げる。全国の生協の総事業高は3兆7,379億円で、食品を扱う小売業ではスーパー大手のイオンに次ぐ規模だ。
生協は数人のグループや個人に週に一度食料品などを配達する宅配の先駆者だ。その後、スーパーやミニコープなどの店舗も手掛けるようになった。
こうして生協は宅配から店舗へ展開してきたのに対し、スーパーは店舗から宅配へ展開してきた。
スーパーに似てきた生協に近年競合が増えている
近年小売業における競争が激化し、生協の競合が増えている。従来のスーパーに加え、ドラッグストアが日用品分野で競合してきた。都市部ではイオングループの「まいばすけっと」のような小型スーパーも競合している。
従来型ネットスーパーは運営コストの面で、これまで生協の競合ではなかった。だが、23年に登場したイオンの「グリーンビーンズ」は、食品の鮮度を徹底的にキープ、品揃えが豊富で、待機時間最大1時間で自宅に届く。今後配達エリアが拡大するとかなりの競合になる可能性大だ。

出典:日本生活協同組合連合会ホームページ
一方、産地指定や国産食材による安全性は従来生協の売りだった。
だが、コロナ禍以降、「ポケット・マルシェ」などスマホを使って生産者と消費者を結びつけ、産地の新鮮な食材を消費者に直接届ける業者が急増し、生協の独自性が薄れつつある。
前回述べた通り、スーパーはドラッグストア、コンビニ、宅配の各業態とコンバージェンスしながら、競争力を上げている。一方、生協はスーパーほど他業態とのコンバージェンスが進んでおらず、競争力が低下気味だ。
コンバージェンスが進むとダイバージェンスが起きる
実はコンバージェンスがある程度進むと、ダイバージェンス(Divergence)が起きる。これは機能分岐という意味だが、元々同じものから二つ以上の異なるものに発達することをいう。
例えば、米国のシニア住宅の形態にCCRCがある。これは、自立健常者向けの「インディペンデント・リビング」、要介助者向けの「アシステッド・リビング」、要介護者向けの「ナーシング・ホーム」が同一敷地内にあるものだ。
実は、CCRC自体が、各々シニア住宅がコンバージェンスして発展したものだ。
このCCRCが、ホテルスタイルの高級感ともてなしを重視した「ラグジュリー型」と、大学との連携で知的楽しさを重視した「カレッジリンク型」に分かれて発展している。
このように米国のシニア住宅産業ではコンバージェンスとダイバージェンスを繰り返しながら、業態の進化が起きている。
こうした知見に基づくと、スーパーとのコンバージェンスがある程度進んだ生協は、今後スーパーとは異なるダイバージェンスが起きることが予想される。
生協の強みとダイバージェンスの方向性
ダイバージェンスは、既存商品に対する差異化として起きる。差異化は自社の強みを活かすのが効率的だからだ。
生協の強みとして、①組合員参加型の商品開発が多く、そのための仕組みも整備されている、②加入者数1,000万人以上のコープ共済を有する、③宅配インフラが整備されている、④比較的品質のよい商品が多い、などが挙げられる。
なかでも組合員参加型の商品開発は、生協の一番の独自性だ。他の小売業者でも利用者参加型の商品開発の例は見られるが、小売業者が外部企業に委託し、その企業が利用者モニターを募集する場合が多い。
ステークホルダーの組合員が商品開発プロセスに直接参加するやり方は、他の小売業者にはない。
ちなみに、コープ共済は組合員の声から生まれた商品であり、組合員参加型の商品開発の成功例だ。コープ共済は、日本生産性本部による23年度顧客満足度調査の生命保険分野で第1位の評価を受けている。
この強みを活かし、人生100年時代を見据えたテーマで改めて徹底することが、今後の生協の価値をさらに高め、他の小売業に対する差異化になると考えられる。