日本発のエイジテックが目指すべき方向とは

海馬の体積から脳の健康度を評価するブレインスイート 国内動向
海馬の体積から脳の健康度を評価するブレインスイート

シルバー産業新聞 連載「半歩先の団塊・シニアビジネス」第204回 

高齢者向けに「テック」を使っただけでは価値は上がらない

近年、エイジテックのような「XXテック」という言葉が多い。フィンテック(Fintech)、フェムテック(Femtech)、ヘルステック(Healthtech)と言った具合だ。

だが、これらの言葉の背景には、テック=技術を使えばイノベーションが起きる、あるいは製品・サービスの価値が上がる、という「テック幻想」が透けて見える

高齢者向けサービスに技術を使えば、必ずしも価値が上がるわけではない。利用者の観点では、エイジテックを謳う製品・サービスには、技術による価値向上を含む「トータルな価値」が求められる。

つまり、その技術によって、利用者が抱えるどんな「不」を解消でき、どんな利便性が向上し、それらが利用者に受け入れられる価格帯で可能なのかが重要だ。

一方、市場性の観点では、その製品・サービスによって、これまで解決されていない超高齢社会の課題解決に役立つことが重要だ。

テックを謳う製品・サービスの提供者は、これらのことを忘れてはいけないだろう。以下に、最近の事例で説明したい。

脳の健康状態の「見える化」で将来の認知症高齢者を減らす

以前紹介した東北大学発のスタートアップ、コグスマートが提供する「ブレインスイート」は、脳のMRI画像から脳の健康度を評価し、より健康にするためのアドバイスを提供するサービスだ。

利用者数は月に100人を超え、うち69%が50歳以上と中高年の割合が大きい。サービス提供拠点は全国に67か所あり、年内に140か所以上まで増えることが見込まれている。

利用者に支持されている最大の理由は、従来の脳ドックではわからなかった「海馬の萎縮度」を計測できる点だ。

ブレインスイートの中核技術は、MRI画像から海馬の体積を計測する独自開発のAI(人工知能)を組み込んだソフトだ。小指程度の大きさの海馬の、目視では不可能な数ミリ立法メートルレベルの微細な変化を捉えることができる。

ブレインスイートには東北大学加齢医学研究所が保有する20代から80代までの健常者の約3,300例の頭部MRI画像を使用。これに約8年分(約400例)の同一被験者の縦断履歴を盛り込んだ「脳画像データベース」を用いて萎縮傾向を同性・同年代と比較できる。この点が利用者に好評だ。

さらに、専用のマイページ(写真)を通じて専門家による個別相談を受けられ、海馬の萎縮改善に有用な助言が得られる点も人気だ。生活習慣の改善で海馬を増大できれば、将来の認知症発症リスクを下げられる可能性が大きくなるからだ。

AI分析で孤独死を予防し、高齢者が入居可能な賃貸物件を増やす

65歳以上の人向けの賃貸仲介専業のR65不動産は、提携企業と「見守り電気」という仕組みを開発した。中核技術は、住宅入居者の電力使用量パターンを常時AIで分析し、通常と異なるパターンの場合、家族や管理会社などにメール通知するシステムだ。

電力会社のスマートメーターを活用するため、追加設備等が不要で大家への負担がない。入居者もセンサー等で監視されないので、違和感がないのがメリットだ。

これらにより、大家が最も嫌う「孤独死」のリスクを下げ、仮に孤独死が起きた場合でも早期発見が可能となり、物件価値の低下を最小限に抑えられる。

さらに孤独死の場合の原状回復費や空室になった部屋の家賃を補償する保険も用意して大家の経営リスクを減らしている。

日本発のエイジテックが目指すべき方向とは

以上の通り、高齢者向けサービスには技術による価値を含むトータルな価値が求められる。その技術によって、シニアの「不」を解消し、利便性を向上した上で、超高齢社会の課題解決につながることが重要だ。

こうした取り組みはきめ細かさが必要で手間がかかるが、日本人の強みでもある。これが日本発のエイジテックが目指すべき方向だろう。

この記事を書いた人
村田 裕之

村田アソシエイツ株式会社代表取締役、東北大学加齢医学研究所スマート・エイジングセンター特任教授

日本の中高年向け事業開発プロデューサー、起業家、社会学者。専門は中高年を対象とした事業開発と消費行動分析、日本と諸外国の高齢社会研究、スマート・エイジング論など。

1999年に日本で初めて「アクティブシニア市場」の重要性を指摘し、情報武装した高齢者「スマートシニア」の出現を予言した。2004年に「シニアビジネス」という言葉を初めて公に提唱し、女性専用フィットネス「カーブス」の日本への紹介、NTTドコモ「らくらくホン」の商品開発支援、関西大学とのカレッジリンク型シニア住宅の創成など、950以上の企業の事業開発に携わっている。日本におけるシニアビジネス分野の第一人者として知られている。

2006年に東北大学からの依頼でスマート・エイジングのコンセプトを提唱し、2009年10月東北大学スマート・エイジング国際共同研究センターの設立に参画。スマート・エイジング・カレッジを11年間主宰し、市民の健康リテラシーの向上とのべ406社との産学連携を推進してきた。

シンガポールに拠点を置く Asia Pacific Eldercare Innovation Awardsにより2018年5月に「Global Ageing Influencers」に、2024年5月に「Super Ageing Japan Outstanding Entrepreneur(スーパー・エイジング・ジャパン卓越起業家)」に選ばれた。

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