2023年2月24日 日経MJ連載 納得!シニア消費
そもそも、なぜ高齢者は賃貸住宅を借りにくいのか
高齢者(65歳以上)になると直面する「不」(不安・不満・不便)の一つは、賃貸住宅を借りにくいことだ。高齢者が入居可能な賃貸住宅は全体の約5%しかないといわれている。
筆者はシニアビジネスの基本は「不」の解消だと言い続けてきたが、この課題に真正面から取り組んでいるのが、高齢者向け賃貸情報サイト「R65不動産」を運営する株式会社R65(東京・杉並区)だ。
そもそも、なぜ高齢者は賃貸住宅を借りにくいのか。理由は、住宅を貸す側の大家が高齢者に多くのリスクを感じて、貸し渋るからだ。
主なリスクは、孤独死、認知症、家賃滞納などで原状回復に高額な費用がかかるうえ、物件価値が低下することだ。
こうした事情から不動産業者も高齢者への仲介には及び腰とされる。高齢者が求める条件の物件が少なく、手間がかかる割に収益が低く、入居後の管理も面倒なためだ。
高齢者賃貸の「リスクの可視化」で大家の経営リスクを下げた
R65不動産が重点的に取り組んだのは大家が漠然と感じている「リスクの可視化」だ。例えば、孤独死を防ぐために提携企業と「見守り電気」という仕組みを開発した。
これは住宅入居者の電力使用量パターンを常時人工知能(AI)で分析し、通常と異なるパターンの場合、家族や管理会社などの見守る人にメールで通知する。
これにより、孤独死のリスクを下げ、仮に孤独死が起きた場合でも早期発見が可能となり、物件価値の低下を最小限に抑えられる。
さらに孤独死の場合の原状回復費や空室になった部屋の家賃を補償する保険も用意して大家の経営リスクを減らした。
一方、住宅を探している高齢者にとっては「65歳からのお部屋探し」と明示されていることで、門前払いされない安心感がある。東京都の小林博隆さん(仮名、70歳)は賃貸住宅を探していたが何軒もの不動産会社に断られた。
R65不動産にたどり着き、希望の物件に入居できた。小林さんは「高齢者に貸してくれる物件が少ない中で、ここまで親身に探してくれて本当に感謝です」と話している。
需要は大きいが供給が少なかった高齢者向け賃貸住宅市場
親身の物件探しは同社の売りだが、物件がないことには仲介できない。大家の経営リスクを下げつつ、積極的に情報発信した結果、高齢者に貸してもよいという物件が徐々に増えてニーズに応えやすくなった。現在同社のホームページでは首都圏だけでなく全国の約1000~2000件の物件を扱っている。
高齢者向け住宅と言うと、有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅などがイメージされやすい。だが、これらは入居費用が高かったり、要介護度が低いと入れなかったりするため、元気な高齢者には必ずしも適さない。
一般に高齢者は築年数が古くても、広い部屋や階段を使わない1階の物件を希望する場合が多いそうだ。入居期間が短い学生と違って、一度入居すると長く住む傾向もあり、大家にとっては空室率を下げ、改修費用も抑えられるメリットがある。
2035年には人口の3人に1人が高齢者となる。その頃には高齢者という括りが時代に合わなくなるだろう。R65不動産は、何歳になっても住宅の選択肢がある社会を構築するためのフロントランナーだ。