シニア向けビジネスアイデアの発想法|高齢者向けサービスを生み出す考え方
シニア向けビジネスアイデアの発想法|高齢者向けサービスを生み出す考え方 シニア向けビジネスアイデアの発想法|高齢者向けサービスを生み出す考え方

シニア向けビジネスアイデアの発想法|高齢者向けサービスを生み出す考え方

テーマ2ではシニアビジネスの発想の基本としての「不の解消」に焦点をおいてお話ししました。このテーマでは、それ以外のシニアビジネス発想の切り口についてお話しします。

01

子供・若者向けの商品が、大人・シニア向けに売れないかを考える

紙オムツは、従来乳幼児向けの商品でした。ところが、社会の高齢化で要介護者が増え、大人向けの紙オムツの需要が増えてきました。ユニ・チャームによれば、紙オムツ市場は2012年には乳幼児向けが1400億円に対して、大人向けが1650億円となり、日本で初めて乳幼児向けより大人向けの方が大きな市場になりました。

これは、大人向けの需要増が顕在化してきたために開発された商品です。一方、現時点で大人向けの需要が顕在化していなくても、子供や若者向けの商品・サービスを大人・シニア向けに売れないかを考えてみることで潜在市場を顕在化できる可能性があります。

増えてきた大人向け商品

紙おむつと同様に赤ちゃん向けのものと思われていた「粉ミルク」にも大人向けが登場しています。森永乳業の「ミルク生活」が該当します。同社は「大人のための粉ミルク」とうたっています。

粉ミルクにもかかわらず、一般の牛乳には含まれていないラクトフェリン、ビフィズス菌、シールド乳酸菌、11 種類のビタミン、食物繊維などの栄養分が含まれています。同社によると利用者の7割が60歳以上で、男女比率は80%が女性。店頭での市場シェアは90%以上とのこと。

高齢になるにつれ様々な理由で食が細る人が増えます。加齢に伴い筋肉量が減少する「サルコペニア」は要介護になる原因の一つですが、その主因がたんぱく質の摂取不足であることがわかっています。さらに女性は閉経後に骨粗しょう症になりやすく、男性に比べて転倒時に骨折しやすくなります。

加齢に伴い不足するが普段の食事では摂りにくい栄養成分を少量でも必要分摂れる利便性がコスパを感じさせ、納得性を高めています。

大人向け商品で気をつけるべきこと

これまでに従来の子供向け商品を「大人向け」にシフトする例が見られています。たとえば、ロッテは、ヒット商品の「雪見だいふく」から、生チョコ入りの「大人の雪見だいふく 生チョコレート」、抹茶生チョコレートが入った「大人の雪見だいふく 濃い抹茶」などを発売してきました。

しかし、単に商品名に「大人の××」と銘打っただけでは売れる保証はありません。これまでの各社の取り組みを眺めていると、こうした例が多く、取組姿勢に大雑把な印象を受けるものがほとんどです。

この理由として、①商品単価がせいぜい数百円のため、一つの商品に多額の開発費用をかけず、中途半端になりがちなこと、②伝統的に大量生産・大量流通・大量販売に慣れている業界のため、多様性の強いシニア市場に対してきめ細やかな対応が不得手なこと、が挙げられます。

工夫すればいくらでもある大人向けヒット商品の切り口

しかし、多額の開発費用をかけなくても、ヒット商品の切り口はいくらでも考えられます。食品メーカーの新商品プレスリリースを見ると、ターゲット顧客が「20歳代から30歳代」と記載されている例が非常に多いようです。ところが、製品をよく眺めると、ちょっと工夫すれば、もっと上の年齢層にも売れそうなものが多く見られます。

たとえば、森永乳業が森永製菓と共同で商品化した「ミルクキャラメルプリン」という商品があります。この商品は、「森永ミルクキャラメル」の発売100周年を記念して、2013年9月より発売されたものです。プレスリリースでは、やはり主要ターゲットが「20歳代~30歳代男女」となっています。

幼少の頃にミルクキャラメルを食べた「世代原体験」を持つ40歳代~60歳代の人にも、この商品の存在を適切に伝えることで、「あら、懐かしいわね」「あのミルクキャラメルの味がプリンになったの?どんな味かしら?」といった「ノスタルジー消費」が起きる可能性があります。

また、1965年に登場してから今もあるロングセラー、森永乳業の「マミー」は、今では小売店では紙パックで販売しています。たとえばこれを、発売当時のデザインの「ビン入り」で販売できれば、50歳代以上の「ノスタルジー消費」が喚起されやすくなるのではないでしょうか。こうした「世代原体験」をもつ人たちに懐かしさを感じてもらい、つい商品を手に取っていただくアプローチは40歳代以上には有効なはずです。

シニアが子供時代に親しんだもののリバイバルを考える

これも世代特有の嗜好性に注目し、昔を思い出すきっかけを提供することで需要を喚起する方法です。タカラトミーが打ち出している、リカちゃん人形の展開がこれにあたります。

リカちゃん人形家族に登場したおばあちゃんは、かつてのリカちゃん

リカちゃん人形は、1966年に誕生した大ヒット商品で、これまでに5千万体以上も売れています。アメリカのマテル社の「バービー人形」を参考にし、日本市場に合うようにコンセプトを作り替えたものです。リカちゃん人形の特色は、当初からキャラクター設定がはっきりした商品であることです。

本名:香山リカ、年齢:(永遠の)11歳、身長:142㎝、体重:34㎏、誕生日:5月3日……と設定し、両親の年齢職業も明快にすることで、単なる人形遊びの域を超え、それぞれが物語の世界に入り込めるように作り込まれています。その後、双子、三つ子の弟や妹たちも誕生させました。

初代のリカちゃん人形に夢中になった年代が50歳代半ばを過ぎた2012年4月に、おばあちゃんを登場させました。おばあちゃんの名は香山洋子、56歳。ケーキ屋のオーナーという設定です。人形を見ると30歳代後半から40歳代前半にしか見えない若々しいおばあちゃんです。初代リカちゃんが登場してから45年が経過し、今度は、孫がリカちゃん、本人が若いおばあちゃんとなって、一緒に遊んでもらうのが狙いです。

さらに、2023年9月には、おじいちゃんを登場させました。名前は香山浩、61歳、学園長という設定です。ゴルフやアウトドアが趣味のアクティブな学園長先生で、その若々しくおしゃれな姿が話題となっています。

「学研の科学」から「大人の科学」へ

一方、学研は、大人向けの雑誌「大人の科学」を出しています。これは現在40歳代~60歳代の人が子供の頃に親しんだ「学研の科学」の大人向けリバイバルで、その年齢層に売れています。「ピンホール式プラネタリウム」「電子ブロック」「簡易ソーラー発電」「紙フィルム式映写機」「USB特撮カメラ」などが付録になっています。「簡易ソーラー発電」などは「学研の科学」の時代にはなかった今風な付録になっていますが、ちょっと豪華な付録つきの科学雑誌というコンセプトはそのままです。

このように、子供の頃の商品を単純にそのまま再現するのではなく、現代風のアレンジを施したうえで、楽しかった頃のコンセプトを再現するのがポイントです。

異なる世代と組み合わせると売れないかを考える

ターゲット顧客の単純なシニアシフトだけを考えるのではなく、異なる世代との組み合わせで訴求力を高める考え方も有効です。いくつか例を挙げてみましょう。

世代間コミュニケーションを意識した集合住宅

積水ハウスグループの積和不動産が運営する「マストライフ古河庭園」は、サービス付き高齢者向け住宅と子育て世帯向けのマンションとを意図的に近接させたものです。共働きの夫婦は、ウィークデーの日中は祖父母に子供を預けることができ、仕事を終えて帰るとすぐに子供を迎えられるというライフスタイルを提案しています。

集合住宅ですから、祖父母、親子の3世代の家族交流だけでなく、庭などの公共スペースで、さまざまな世代間交流を楽しめるわけです。ただし、このような複合型住宅で相乗効果を発揮させるためには、ひとつの企業が、異なる世代の交流を意識して管理する仕組みが必要です。

2世帯+兄弟姉妹の2.5世帯住宅

旭化成ホームズの「2.5世帯住宅」は、これまでの2世帯住宅に、未婚の兄弟姉妹を加えたものです。これは、晩婚化が進む社会状況を反映させた商品です。それぞれのプライバシーを保てるように工夫しながら、大勢で楽しめるスペースを作るなどして、「人が増えれば、賑やか。楽しい。楽しい2世帯より、もっと楽しい2.5世帯」を売り物にして展開しています。

異なる年齢層がバランスよく居住する「ユーカリが丘」

さらに、異なる年齢層がバランスよく居住することを意図的に計画した大規模な住宅コミュニティが、不動産会社の山万が手がけた千葉県佐倉市の「ユーカリが丘」です。ここの特徴は、コミュニティの人口構成が10歳代、20歳代、30歳代、40歳代、50歳代、60歳代で、ほぼ均等になっていることです。

多摩ニュータウンのような高度成長期の住宅団地は、当時の団塊世代の子育てファミリーを対象に1970年代初めに開発されました。団地住民の年齢層がほぼ同じのため、入居から40年以上経過した結果、現在は高齢者主体の街になっています。これに対して、ユーカリが丘は長期的に人口構成がバランスのとれた街づくりをコンセプトとしているため、意図的に各年代の割合が均等になるように開発・住民の受け入れを行っているのです。

鉄道も自社で敷設し、駅の隣に保育所を設置するなど、子育てファミリーが住みやすい街になっています。また、年月が経ち高齢者が増えてくると高齢者施設をつくり、住み慣れた街でずっと暮らし続けられる、いわゆる「エイジング・イン・プレイス」の実現を目指しています。

海外で売れているものが日本でも売れないかを考える

これは、外食産業やアパレル産業、小売業など、さまざまな業界でいくつもなされてきた手法です。シニア向けでいえば、先述の女性専用フィットネスクラブのカーブスもこれにあたります。

日本でも売れやすい海外ビジネスの条件とは

私が女性専用フィットネス「カーブス」を米国で初めて見た時、次の3つの理由から「これは日本でもかなりいける」と確信しました。

第一に、見た目が「シンプル」なこと。運動を行うための環境以外、ほとんどありません。第二に、成果に無関係のものは一切排除していること。当時はフィットネスジムには、温浴施設やプールがあって当たり前でしたが、そうしたものは一切ありませんでした。第三に、国の補助金や介護保険報酬に一切依存しないこと。実はこれが最も重要です。

料金は全て利用者の自己負担。従って、サービスの質と価格とのバランスで顧客に受け入れられるかが決まります。このためスタッフは常にサービス品質の向上に不断の努力が必要です。しかし、これが事業者の力量を向上します。近年、介護保険報酬が減額傾向にあるなかでカーブスの事業モデルが注目される理由はこれらの点にあるのです。

リタイアメント・コミュニティは日本でうまくいかない典型

一方、外国発のシニア向け商品が日本でうまくいかない典型は「リタイアメント・コミュニティ」です。リタイアメント・コミュニティとは、アメリカ、カナダ、オーストラリアなどに特有の大規模な老人ホームです。なかには一か所に3000人も居住している例もあります。

リタイアメント・コミュニティには大きくCCRC(Continuing Care Retirement Community、継続介護付きリタイアメント・コミュニティ)とAARC(Active Adults Retirement Community、元気高齢者向けリタイアメント・コミュニティ)があります。アメリカに圧倒的に多いのはCCRCです。アリゾナ州にある有名なサンシティ(Sun City)は、AARCです。

このリタイアメント・コミュニティについては、日本では2000年頃からさまざまな企業が挑戦してきましたが、未だに成功例はありません。現存するものでアメリカ型のリタイアメント・コミュニティに近い例としては、千葉市稲毛区にある「スマート・コミュニティ稲毛」が挙げられます。

しかし、実はここはCCRCではありません。CCRCには通常アシステッド・リビングと呼ばれる介助サービス付きの居住棟と、重度の要介護者が介護サービスを受けられるスキルド・ナーシング・ファシリティ(日本の介護施設に相当)が同一敷地内にあります。

ところが、スマート・コミュニティ稲毛には、訪問介護サービスの会社はありますが、これらの介助・介護施設がまったくありません。したがって、入居者が重介護状態になれば、所有権はあるものの、ここから退去して別の介護施設で新たに料金を支払って、介護を受ける必要があります。

アメリカ発のリタイアメント・コミュニティが日本でうまくいかない理由とは?

私は、リタイアメント・コミュニティは日本に馴染みにくいと思っています。最大の理由は日米で市場構造と文化が違うからです。アメリカのリタイアメント・コミュニティでの居住地域は、前掲の通り次の3つに分かれます。

  1. 自立して元気な人が住むインディペンデント・リビング
  2. 介助が必要な人が住むアシステッド・リビング
  3. 介護が必要で寝たきりの人が住むスキルド・ナーシング・ファシリティ

この3つに、レストラン、フィットネスジム、病院などの施設がセットで構成されています。

一方、日本では「健常型」か「介護型」、あるいは両者の「混合型」(健常型と介護型がセットになったもの)に二分され、「介助型」とでもいえるアシステッド・リビングという概念が厳密にはありません。仮にアシステッド・リビングと謳っていても、実質は介護型になっています。

日本の混合型有料老人ホームでは、健常型に入居してくる人でも、実は身体に何らかの不具合があり、介助や付き添いが必要な人が多いのです。つまり、近い将来の要介護予備軍が健常型に入居し、本当に健常な人は自宅に住み続けるのです。このように、アメリカ式のリタイアメント・コミュニティの居住形態と日本の老人ホームの居住形態とは大きく異なります。

また、アメリカ人の「パーティー文化」も日本人にはあまり馴染みません。日本の高級老人ホームに行くと、立派なバー施設を備えたところが多いのですが、バーの利用者はほとんどいません。こうした老人ホームでは、入居者どうしがホームの中で一緒に酒を飲むのを避ける傾向があります。入居者どうしで一旦感情的な対立が起こると、互いに居づらくなるからです。私が以前訪れたある高級老人ホームでは、バーカウンターが果物置き場になっていました。

これまでも外国発のシニア向けサービスは数多く日本に導入されてきました。しかし、導入後成功しているものも、失敗したものもいろいろです。ちなみに、前掲のダスキンは、かつてアメリカの「ミスタードーナツ」を日本に持ち込み大成功しています。ところが、アメリカで圧倒的に成功している「ダンキンドーナツ」は、かつて日本にも上陸しましたが、長続きせず撤退しました。アメリカで売れているからと言って必ずしも日本で成功するわけではないのです。

POINT

こうした事業の成否を分けているのは、リタイアメント・コミュニティのような市場構造と文化的な違いでの例を除けば、多くの場合「経営者の力量」です。「天の時、地の利、人の和」を生かして、事業を成功に導くのは、まさに経営者の腕前以外の何物でもないからです。

制度導入・規制緩和で生まれる市場機会を考える

公的介護保険制度に代表されるように、新しい法律や制度の施行、規制緩和で新たな市場が生まれます。こうした機会をうまく活用すると、比較的敷居が低く、新規事業に進出できます。

公的介護保険制度の導入で生まれた介護市場

子供向けの通信教育「赤ペン先生」で有名なベネッセ・コーポレーションは、2000年4月の公的介護保険制度導入を機に、高齢者住宅・介護分野に本格的に乗り出しました。本業の「赤ペン先生」事業が売り上げ減少傾向になっているのに対して、有料老人ホーム事業では業界大手に成長し、シニア向け事業がベネッセグループの稼ぎ頭になっています。

ベネッセ同様、長年子供向けに学習教材を売ってきた学研も、少子化で子供向けの市場が縮小したので、子会社を通じて高齢者住宅市場に進出しました。そのタイミングも新たな制度導入時です。国土交通省が従来の高齢者専用賃貸住宅(高専賃)、高齢者円滑入居住宅(高円賃)、高齢者向け優良賃貸住宅(高優賃)の三つを一本化する形で「サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)」制度を2011年11月より開始したのがきっかけです。このタイミングで参入することで、それまでまったく高齢者住宅に縁のなかった学研が、新たに高齢者向け住宅事業に参入できたのです。学研はわずか数年でサ高住分野で業界大手になりました。

このように新たな規制導入・規制緩和が新たな市場を生み出すきっかけとなるのです。

自社の強みから差異化を考える

自社の強みから事業の差異化を考える発想法は、シニアビジネスに限らず、新事業企画の鉄則です。多くの企業は、シニアビジネスを始める時に市場調査から入ります。しかし、市場調査の結果、有望なビジネスの芽を見つけられたとしても、必要な経営資源が自社に乏しく、断念するということもしばしばあります。したがって、新事業を企画する場合は、自社の強みが何で、それをどう活用すれば市場で差異化できるかを徹底的に考えていく方が近道なのです。

旅行好きな会員が自社の会員誌を配布する事業モデル

この例として挙げられるのが旅行会社、クラブツーリズムの情報誌を配布する有償ボランティア活動「エコースタッフ」です。コロナ禍前までは、クラブツーリズムには、シニア層を中心に公称300万世帯、700万人もの会員がいました。会員と言っても会費は無料。一度でもクラブツーリズムの旅行に参加すれば自動的に会員として登録されます。エコースタッフは、もともと皆クラブツーリズムの会員です。

クラブツーリズムでは、旅行情報誌「旅の友」を毎月会員に無料で配布していました。その際、郵送より安いメール便に加えて、エコースタッフの手を借りて、スタッフの自宅周辺の会員に手渡しもしました。エコースタッフは、雑誌を渡しながら、共通の趣味である旅行の話題で話が弾みつつ、配布先の家族の状況などマーケティング情報も把握しました。

エコースタッフは配布部数により一回の配布につき数千円から数万円の収入を得られました。好きな旅行絡みの仕事でちょっとしたお小遣いが稼げるため、シニアの会員に大変な人気があり、首都圏で8000名程度のエコースタッフが活躍していました。

この仕組みによる「旅の友」の配送コストは、エコースタッフへの支払いを含めても、クロネコヤマトのメール便よりも安くできるのがミソです。コストを安くできるだけでなく、顧客がクラブツーリズムに対してより高いロイヤルティをもつようになり、結果として旅行への参加頻度も上がるのです。この仕組みなどは、まさにシニアが顧客主体のクラブツーリズムの強みを生かした独自の差異化と言えましょう。

地域の強みから差異化を考える

私が知る限り、新規事業を成功させる人は、それまでの通説や一般常識にとらわれず、独自の差異化を実行する人です。そして、独自の差異化は、その会社や地域の特徴を強みに変えることで成し遂げている例が多いのです。

何もないように見える過疎地にも必ず何か資源がある

長野県にある「おやきビジネス」で有名な「小川の庄」がそれです。小川の庄は名前の通り長野市の西、小川村にあります。小川村は総人口3000人弱。うち65歳以上の高齢者人口が1300人を超え、高齢化率は43%を越えています。限界集落ではありませんが、文句なく限界集落予備軍です。

小川村は山間の傾斜地の多い場所です。私も実際に行ったことがありますが、現地にたどり着くまでは、こんな場所に本当におやきビジネスがあるのだろうかと不安になりました。お世辞にも耕作に恵まれた土地とは言えない場所です。

しかし、必要は発明の母、逆境こそが知恵を生みます。こうした傾斜地で栽培できるのは、穀物では麦や雑穀となります。この麦や雑穀を皮の原料とし、条件の悪い耕作地でもできやすい地元産の野沢菜や山菜を具にしたのが、実はおやきなのです。また、このあたりには広葉樹が多いため、おやきを焼くための燃料にそれを使いました。

おやきは、本来、売り物ではなく各自の家で食べるものです。家ごとに皮の作り方や具の種類から焼き方まで異なる家庭食なのです。このため、おのおの家の製法・ノウハウは、すべて家の女性、つまりおばあちゃんたちが持っていました。

ところが、過疎の村で、おばあちゃんたちもやることがなく、低収入にあえいでいました。このおばあちゃんたちが働きやすい職場環境を整備すれば、雇用機会の創出にもなり、一挙両得となる。そう考えた創業者の権田一郎さんは、「究極の地元資源」、おばあちゃんたちをおやきつくりの主役にして事業を組み立てたのです。このように地域にある資源を徹底的に使いこなすことを考えた末の結論が、おやきビジネスなのです。

地域の外から見た方が地域の強みは見えやすい

徳島県の山村、人口2000数百人の過疎の町、上勝町にある株式会社いろどりが、地元の高齢者を活用して行っている「葉っぱビジネス」も地元の強みを生かしたものです。日本料理店に出荷し、料理を彩る季節の葉や紅葉、花、山菜などを、栽培・出荷・販売する農業ビジネスです。

この地域の強みの発見は、実は地域内ではできませんでした。地元の人たちが当たり前と思っていることでも、外部の目で見ることにより、ビジネス価値を見つけ出すことができるのです。現在社長を務めている横石知二さんが、大阪の料亭で見た光景が原点になっています。

隣で食事をしていた若い女性が、料理に添えられた葉っぱを自分のハンカチで丁寧にしまって席を後にしたのです。そこで、横石さんは「これはビジネスになる。葉っぱは地元にたくさんある。葉っぱなら地元の高齢者でも簡単に集められる」とひらめいたそうです。これは、外部から地元を見ることで、地元の強みを見つけ出した例です。

POINT

私達がこれらの事例から学ぶことは何でしょうか。それは、「新事業成功の要諦は、地域の強みを徹底的に活かすこと」です。そして、同じことが民間企業に対しても言えます。つまり、「新事業成功の要諦は、自社の強みを徹底的に活かすこと」。そして、どこまで徹底できるかは、取り組む経営者の腹づもりで決まるのです。

パートナー企業のシニア顧客に売れないかを考える

自社がシニア顧客を持っていなくても、戦略的提携により、提携先のパートナー企業のシニア顧客を自社の顧客にできることがあります。

有料老人ホームと生花店が組むと何が起きるか?

この例が、有料老人ホーム・デイサービス事業会社のアズパートナーと、生花販売の日比谷花壇のコラボレーションです。その中身は、アズパートナーが運営する老人ホームの入居者やデイサービスに来ている高齢者を対象としたフラワーアレンジメント教室を開催することです。

高齢者たちは教室で学ぶことで、フラワーアレンジメントの資格を取得できます。しかしそれ以上に重要なのは、花をいろいろと扱っているうちに、「自分の葬儀では、こんな風に花を飾って欲しい」という意識が芽生えることです。アズパートナーは、自社施設利用者の顧客満足度を高められる一方、日比谷花壇は見込み客を獲得できるのです。

先述したカーブスでも、60万人の中高年女性会員をターゲットとした化粧品会社、食品メーカーからのサンプル調査やテストマーケティングの依頼が来ます。

クラブツーリズムも700万人の会員を有し、首都圏在住者が7割ということで、その大きな顧客ベースを活用したいというタイアップ企画の打診がたくさん来ます。

このように自社でシニアの顧客ベースを持っていなくても、何十万人というシニアの顧客ベースをもっている企業とパートナーになることで、シニア顧客へのアプローチが可能になります。

相手先企業の顧客と売り込みたい商品との相性に注意

ただし、この際に気をつけなければならないのは、パートナー企業が持つ顧客と自社が売り込みたい商品・サービスとの親和性です。

たとえば、シニア客をたくさん持っているある旅行会社の会員に対して、生命保険会社がダイレクトメールを打ったところ、会員から旅行会社に多くのクレームが発生しました。「俺は旅行に行きたくて会員になっているのに、なんで旅行と関係のないものを送ってくるのか?」「旅行会社のくせに、顧客が死ぬのを見越しているのか?」などといった抗議のクレームです。

この場合、旅行カバン、ウォーキングシューズなど、旅行に関係の深い情報であれば、こうしたクレームはあまり起こりません。パートナー企業の顧客ベースを活用する場合、情報を受け取る側が抵抗なく受け入れられるものでなくてはなりません。

このテーマのまとめ

  • 子供・若者向け商品の「大人シフト」は有望。健康増進効果・低カロリー化・世代原体験の活用がポイント
  • リバイバル商品は単純な再現ではなく、現代風アレンジを施してノスタルジーを喚起することが成功の鍵
  • シニアと孫・子世代との組み合わせは「孫のためなら財布の紐が緩む」心理を活かした有力な切り口
  • 海外で成功したシニア向けサービスの日本導入は、市場構造・文化の違いを十分に検証してから行う
  • 新制度・規制緩和のタイミングは新規参入の好機。ベネッセ・学研のサ高住参入がその典型例
  • 自社の強みの徹底活用が新事業成功の鉄則。クラブツーリズムのエコースタッフはその好例
  • 地域の強みは外部の目で発見しやすい。おやきビジネス・葉っぱビジネスは地域資源の徹底活用の成功例
  • パートナー企業のシニア顧客を活用する際は、提供する情報・商品との親和性を必ず確認する

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