いくつになっても脳は若返る

 
 

2006年10月24日 Vol. 95

村田裕之
 

「いくつになっても脳は若返る」という新著を上梓した。

本書を「また、最近流行の“脳”本のひとつか」と思われたなら、それは少し違う。
その理由は、脳科学の最先端の研究成果から話は始まるものの、
それにとどまらず、自身の精神科医としての35年の臨床現場での体験と結びつけ、
後半生の創造的なライフスタイルを提案する“勇気の書”だからだ。

ただし、今回は私の書下ろしではなく、翻訳である。
なぜ、今回、この本を翻訳したいと思ったのかについてお話したい。

すでにご存知の方も多いと思うが、私は関西大学、株式会社アンクラージュと
共に日本初の「カレッジリンク型シニア住宅」の実現に関わっている。
このカレッジリンクという形態は、当初アメリカで生まれたものである。
とはいえ、アメリカでさえ、同じカレッジリンクといっても施設により、
その内容は千差万別である。

しかし、共通して言えるのは、他のリタイアメント・コミュニティに比べて、
そこに住んでいる年長者が格段に元気でいきいきとしていることだ。
そのことに深く感銘を受けた私は、これこそ日本で取り組むべき課題だと
痛感し、以来、多くの著書・雑誌・講演等でこの考え方を述べてきた。

確かに、カレッジリンク型シニア住宅に住んでいる年長者は、
若い学生や職員とともに学ぶ機会が多いことで
元気でいきいきとしている。

しかし、検討を進めるうちに私のなかで次のいくつかの疑問が湧いていた。

  1. 学ぶことで「元気でいきいき」としている人は、その人の体のどこで、どのような変化が起きているのだろうか?
  2. 「元気でいきいき」としている状態とは、具体的にどういうことなのだろうか?
  3. どうすれば、年長者が「元気でいきいき」としている状態を、もっと積極的に促すことができるのだろうか?

アメリカの施設担当者にこれらの疑問を投げかけてみたことがある。
ところが、彼ら自身も経験的にやっているだけで、
なぜ、そうなるのかについての問題意識が案外希薄で、
ほとんど知見がないことを知った。

実は、こんな状況のなかで、本書に出会ったのである。

71歳で大学院に入学して歴史学の修士号を取得した女性、
若い頃中退を余儀なくされ再入学して児童文学で博士号を取った42歳女性、
レジ打ちからポーカー好きの女性ドライバーに転進した66歳女性。

あるいは、ベストセラー「ルーツ」を書いた40代後半のアレックス・ヘイリー、
若い頃大失敗をして二度とオペラを作曲しなかったが
50年後に再挑戦して大成功したベルディ、
20代に世界旅行をして多くの発見をしたが発表できず、
23年後の55歳に発表して世界に衝撃を与えたダーウィンなど。

本書では有名無名の多くの年長者のエピソードが、
著者の独自の考えと共に説得力を持って語られる。

当初、先に挙げた問題意識から読み始めた本書だが、
読み進めるうちに、むしろカレッジリンクという特定のテーマだけでなく、
人が年齢を重ねていくことの意味を深く考えるための
示唆に溢れていることに私は気がついた。

この示唆を多くの方にお伝えしたいと思ったことが、
私が本書を翻訳した理由である。

本書の最後に引用されている、次の言葉に
その意味が込められているのでご紹介したい。

存在とは変化することであり、変化とは成熟することであり、
成熟とは自分自身を永遠に創造していくことである。
―――アンリ・ベルクソン(フランスの哲学者)

 

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