平凡な日常を刺激的に変える一つの方法
 
  2004年8月23日 Vol. 57
村田裕之
 

内館牧子さんといえば、
NHKの大河ドラマなどを手がける人気脚本家。
この内館さんは、東北大学の大学院に
在学中であることも有名です。

内館さんは1948年生まれの団塊の世代。
一般のサラリーマンであれば、
そろそろ定年退職の準備に差し掛かる年齢ですが、
内館さんの場合は、ますます活動範囲が
広がっているようです。

横綱審議委員を務める内館さんは、
相撲の研究を深めるために社会人選抜の入試を突破し、
文学部の大学院生になられたとのこと。

よくある大学の公開講座の聴講生ではなく、
正規の大学院生なのが驚かれるようです。
平日は仙台で過ごし、週末と夏休みなどは
東京で脚本を執筆する生活だといいます。

この内館さんが次のように語っていたのが
印象に残りました。

「仙台で生活するようになって、仙台の良さ、
東北大学の環境の素晴らしさを本当に実感しました。
ところが、当の仙台人や東北大生が
その良さに気づいていないようなのです。
それとも良さに慣れてしまったのかしら」

私もかつて学生時代、仙台に6年間住んでいたため、
彼女の発言の意味がよくわかります。
入学当初、緑が多く、食べ物も美味しく、
都市と地方の中間的な雰囲気のある
仙台が素晴らしい場所に思えました。

しかし、時が経つにつれ、
恵まれた環境が空気のように当たり前になり、
当初の感動はいつしか消え去っていきました。
その割に仙台のことを本当によく理解していたかといえば、
心もとないのが実情でした。

このような「灯台もと暗し症候群」は、私も含めて、
多くの方に当てはまるのではないでしょうか。

たとえば、大阪に出張に行ってタクシーに乗ると、
運転手が口を揃えて言うセリフは
「大阪はあきまへんわ」です。

謙遜半分での挨拶として使っている面もありますが、
大阪に行く度に耳にすることから、
これは単なる偶然ではなく、
多くの大阪人が陥っているのではないかと思います。

田舎育ちの私は、東京よりも大阪の飾らない雰囲気が
結構肌に合い、良い所の印象があるのですが、
肝心の大阪人からはあまり芳しい言葉を聞きません。

私が大阪に好意を感じる理由は、
大阪にずっと住んでいないために、
良い意味での幻想を持ち続けていることと、
アウトサイダーとして大阪を常に新鮮に見ることが
できるせいだと思います。

内館さんの場合もほぼ同じでしょう。彼女によれば、
仙台の定禅時通りのけやき並木を歩くと、
東京の表参道や京都の四条河原町などが、
かすんで見えるそうです。

旅行の魅力は、日常の生活から脱出し、
非日常の体験に触れることで視野を広め、
精神をリフレッシュできることです。

一方、内館さんの場合は、東京での生活も
仙台での生活も「日常」なのでしょう。

しかし、彼女の方法は、
ある程度距離を置いたところに
意図的に生活拠点を持つことで、
平凡に陥りがちな日常を、
刺激に満ちた発見の多い日常に
変えられることを示しています。

多くの人にとって彼女のような生活スタイルは
自分には出来そうにない特別のものに
見えるかもしれません。

でも、内館さんのやり方は、
一つの方法に過ぎません。

彼女からわれわれが学ぶのは、
自分のやる気と工夫次第で、
平凡な日常を刺激的な日常に
変えられるということなのです。



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