会員急減する巨大組織AARPから学ぶもの
 
  2004年1月20日 Vol. 43
村田裕之
 

世界最大のシニア向けNPO AARPは、
いま未曾有の危機を迎えている。

スマートシニア・ビジネスレビューVol. 39で、
AARPが、米国の保険制度であるメディケアの
大幅な制度変更のための法案を
支持していることに触れた。

これに関連して、先週の金曜日、AARPのノベリ会長が、
「AARPが法案を支持したのが原因で、
少なくとも4万5千から4万9千人の会員が
AARPを退会した」と発表した。

だが、業界筋では、この数字は
かなり「少なめ」と見られている。
この数字が法案支持に反対して、
すぐに退会した人の数だからだ。

年間契約であるAARPは、
入会日から一年毎に会員資格が更新される。

だが、今後更新日を迎える人がどの程度、
会員を継続するのかがまったく未知数だ。
今後1年間で少なくとも3百万人は
退会するという見方もある。

なぜ、このような危機に直面することになったのか。

退会者が急増した最大の理由は、
今回のメディケア改革法案が、
会員である50歳以上の人の利益より、
保険会社、製薬会社の利益を優先した
「改悪」であると捉えられていることだ。

さらに、多くのAARP会員が憤ったのが、
歴史的に民主党支持が多かったAARPが、
法案を作成した共和党を支持したことだ。

法案起草者の共和党議員は、
「国家の保険制度であるメディケアにも
市場原理を導入し、将来の国家財政破綻を
避けなければならない」と説く。

一方、これまでAARPに近かった民主党議員は、
「社会保険制度は、国の責任であり、
一部の保険会社や製薬会社の経営に
左右されるべきものではない」と説く。

どちらも、それぞれに言い分があるように聞こえる。

だが、今回の一連の騒ぎにおける最大の問題は、
非常に複雑でわかりにくい法案内容が、
多くのAARPの会員に正確に理解されないまま、
AARPのトップが一方的に 共和党支持に回ったことにある。

調査によると、AARP会員の7割以上が、
今回の法案の中身がよくわかっていないという。

ノベリ会長は、世界最大の広告会社
オムニコムグループの一角を創業した
PRのプロのはずだったが、
今回は大失態をしたと見られている。

どんな法案にも完全なものはない。
本来、AARPがやるべきだったことは、
この複雑な法案のメリット、デメリットを
会員向けにわかりやすく整理して示すことだった。

そして、法案支持の判断は、 会員に委ねるべきだった。

年間収入700億円の4分の1が
保険関連収入であるAARPにとって、
法案支持は、即収入増につながる。

この理由から、保険会社や薬メーカーに
有利な法案支持に日和った。
この姿勢が、会員による批判の最大の理由だ。

組織が巨大化すると、
組織の維持拡大が自己目的化し、
組織を立ち上げた本来の目的が
忘れ去られることが多い。

組織のリーダーは、
その組織の「ルーツ」を忘れてはいけない。
AARPのルーツは、会員である50歳以上の人たちの
「良き代弁者」であったはずだ。

組織存在の原点を忘れるな。

今回の騒ぎは、そのことをわれわれに
教えているのではないか。


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