大正11年生まれの中学3年生
 
  2003年12月24日 Vol.41
村田裕之
 

「何かを始めるのに遅すぎることはない」

時々耳にする素晴らしい言葉だ。
にもかかわらず、多くの人は年を取るにつれ、
この言葉を単なる精神訓にとどめてしまう。

だが、世田谷区新星中学校に通う
永田トミさんはその例外だ。

大正11年生まれの永田さんは、
現在新星中学校の夜間学級に通う3年生。
つまり81歳の中学3年生だ。

永田さんは、尋常小学校卒業後、
高等小学校(現在の中学校)に通うことなく、
社会人となった。

実は永田さんのような人は、
この世代には少なくない。
当時、成績優秀でも家が貧しくて
高等小学校に通えなかった人は多かった。
あの田中角栄も尋常小学校卒だった。

永田さんが稀少なのは、
尋常小学校卒業後66年間の
空白があったにもかかわらず、
中学校に行こうと決心したことにある。

何が彼女をその気にさせたのか。

その理由は、介護ヘルパーの資格を
取るための講習にあった。

講習に行ったら、出てくる記号が全部英語で、
自分の頭と記号が全く一致しなかった。
そのため、講習を受けるのに大変な苦労をして、
「ああ、学校に行こう」と思ったのだそうだ。

月曜日から金曜日まで、
昼間介護ヘルパーの仕事をした後、
夕方に片道2時間半かけて中学校に通う。

学校に行ったおかげで、
当初の目的の英語だけでなく、
俳句や音楽も勉強し、
俳句コンクールで入賞するほどになった。

永田さんはいう。

自分のために人生を使うの。
生活のためや、生きるためじゃなくて、
自分のために今勉強しているの。
自分が楽しいと思って勉強しているの。

人が何かにひたむきに打ち込む姿は美しい。
ヤンキースの松井が無我夢中でホームインして
飛び上がったシーンも感動的だった。

何かに挑戦して悪戦苦闘する姿は、
それを知る人たちに大きな勇気を与えてくれる。

だが、一番勇気を与えられているのは、
実は、ひたむきに挑戦している当事者だ。

勇気がないから挑戦できないという人は多い。
しかし、勇気というのは、 挑戦することで湧いてくるものだ。
そのことを当事者はよく知っている。


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