中高年にとっての「第三の場所」 社会学者のレイ・オルデンバーグは自著「The
Great Good Place」の中で仕事の場でもなく、家庭でもない「第三の場所(Third Place)」が少なくなってきていると指摘しました。
この考え方にヒントを得て、アメリカ人に「第三の場所」を提供することをサービスコンセプトにし、それまでの店舗戦略を大幅に変更し、大成功を収めたのがコーヒーショップ・チェーン「スターバックス(通称スタバ)」であることは有名な話です。
スタバは日本でも都心部を中心にすっかりおなじみになりました。しかし、客層をよく眺めると、20代から30代の人が多い一方、50代以上の人はあまり多くありません。
つまり、スタバのようなコーヒーショップでも日本の中高年に対しては「第三の場所」に必ずしもなっていないのです。
その理由は一体何でしょうか?
私の見方では、スタバの難点は三つあります。
第一にイスの質がよくないこと。一つの店舗に数席だけクッションの効いたイスがあるのですが大半が安い会議室で使われているパイプイスと同じか、壁際にくっついている電車のシートのようなもので座り心地がよくありません。
第二に、隣席との距離が近いこと。仲間や同僚と話しをするにはよいのですが、一人で何か作業するときには隣が気になり、やりにくいのです。
第三に、若者が多いこと。正確に言うと、モラルのない若者も来店しやすく、携帯電話で延々としゃべったり、大声でキャーキャー話をしたり、周囲のことを考えない迷惑な輩に出くわすことが多いのです。
これらの理由から、来店者の滞在時間が意外に短く、平均すると20分程度となっています。
一方、アメリカでスタバが伸びた理由は、単にコーヒーを提供するだけでなく、会社以外の仮想オフィス機能を提供したことにあります。
つまり、スタバに来る人たちの多くは、コーヒーを飲みに来るのではなく、人とビジネスの打ち合わせをしたり、ノートパソコンを広げて書類を作成したりするのです。
言い換えるとアメリカにおけるスタバは消費者向け飲料ビジネスの会社ではなく、事業用不動産ビジネスの会社に進化しつつあるのです。
しかし、日本のスタバでは、複数のビジネスマンが書類を広げてビジネスミーティングをしたり、パソコンで延々と作業したりする風景はあまり見られません。
このように、同じスタバでもアメリカと日本では提供しているサービスの方向性が異なっています。恐らくマーケティング戦略の違いから、第三の場所というコンセプトは、日本の店舗ではアメリカのそれよりあまり打ち出されていないのではないかと思われます。
一方、都心にはアメリカにない、比較的中高年客が多い「ルノアール」というコーヒーショップ・チェーンがあります。このルノアールにはスターバックスとは対極的な中高年を惹きつけるいくつかの特徴があります。
第一に、隣席との距離が比較的離れていること。スタバと異なり、個々のテーブルが離れていて隣の人と密接した感じが少ない。また、一人用のテーブルも多く、長テーブルの場合でも隣の席との間にパーティションがあり、一人での作業に集中できます。
第二に、スタバとは対照的に騒がしい若年層が少ないこと。商品単価の高さとブランドイメージが若年層を寄せ付けないのでしょう。
ルノアールの商品単価は大半が600円前後と高めです。
しかし、実はスタバでも変わった名前の商品で大きなサイズを頼むと500円近くするし、菓子パンなどのサイドメニューが高価なため、客単価は意外に差が少ないのですが、なんとなく高いイメージがあるのでしょう。
第三にコーヒー以外のメニューが充実していること。スタバでもいろいろなメニューがあるのですが、基本はコーヒーか紅茶のバリエーションのみ。
しかし、ルノアールは喫茶室。喫茶室といえばフルーツパフェ、チョコレートパフェなどの「パフェもの」。
これがコーヒーに飽きた時に気分転換になります。しかも、コーヒーの値段とほとんど変わらないのがよい。また、長くいても店に嫌がられないばかりか、タダで緑茶を注いでくれますし、必ずおしぼりが出てきます。
このように、日本において中高年の支持が得られているのは、むしろルノアールのスタイルであるといえます。しかし、その理由はアメリカのスタバの実態である「事業用不動産ビジネス」を展開していることなのです。
実際ルノアールはコーヒーショップと併せて貸会議室サービスも手がけており、アメリカのスタバのコンセプトに近いことを独自に実践しているのです。
しかし、ルノアールにも難点が三つあります。
第一に、禁煙コーナーがなく、けむいこと。隣席と離れていてもタバコの煙は侵入してきます。
第二に、席がゆったりしているために、横になって昼寝をする輩が時々目に付くのですが、このような品の悪い客を放任していること。
第三に、店の内装、インテリアが味気ないこと。昔からあるいわゆる古い喫茶店のイメージをいまだに引きずっています。
この点においてはスタバが優れています。
第一に、禁煙であること。喫茶店イコールタバコを吸う所というイメージを一新した功績は大きいといえます。
第二に、内装の色調がよいこと。日本では不特定多数の人が訪れる場所では経費節減なのか白色の蛍光灯が使われる傾向があります。
スターバックスの照明には暖色系の白熱灯をベースにした直接・半間接照明が使用されています。
しかも、壁の色も暖色系で、飾ってある絵やアイテムで光線を反射・和らげるなど工夫がなされています。これらインテリアの工夫が、居心地のよさを醸し出しているといえます。
以上を踏まえると、日本ではルノアールのスタイルに、スターバックスの良い面を取り込んだコーヒーショップが中高年顧客をさらに獲得するのではないかと思います。
皆さんはどう思われますか?
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