退職、そして出発
 
  2002年6月4日 Vol. 15
村田裕之
 

「なんだ、村田のことか」と思われる方(?)もいらっしゃるかもしれませんが、実は私の知り合いの宮本厚士さんの著書のタイトルです。

宮本さんは4月16日放送NHK総合テレビの人気番組「生活ほっとモーニング」に出演されていた方でご覧になった方はご存知かと思います。この本には宮本さんが出光興産を58歳で早期退職された後、5年間ご自分の足で取材した出光退職者48人の退職後の足跡と宮本さんの感想が述べられています。

長年勤めた会社を退職して再出発を考えざるを得ない人が最近特に増えています。この本には特に五十代後半で転進した事例が多く、この世代にとっての有用な指南書といえます。宮本さん自身が「典型的な転勤族サラリーマン」だったことから、退職予備軍である五十代の人たちの意識改革を願っての「親心」が強く感じられます。

この本を読んで私が感じたことが二つあります。一つは、事例に取り上げられている退職者OBの方々が試行錯誤しながら、自分なりの新しい道をそれなりに歩んでいることです。

サラリーマン男性の場合、退職後は「濡れ落ち葉」やら「ワシ族」(奥さんがどこかにいく、というと"ワシもいく"という主体性のなさを皮肉った言い方)などと揶揄されることが多いのですが、実態はそうでもないという証拠が多く示されており、退職予備軍への励ましになっていることです。

一方、もう一つは、多くの方が「何といっても今までのサラリーマン時代と違ってストレスが全くない」とおっしゃっていることです。私は、多くのサラリーマン退職者から出てくるこの言葉にこそ、現在の企業社会がもつ「何か」が象徴されている気がしてなりません。

私どもが昨年の秋に実施した熟年世代を対象にした「セカンドライフをどうすごしたいか」という調査での回答で目立ったのは「これまでは会社のために自分のエネルギーも時間も費やしてきた。退職後は自分のために費やしたい。」というコメントでした。

これを読んで、なるほど、こういう風に思っている人が多いのか、ということがよくわかった反面、次の疑問が湧きました。

「これまで会社のために自分のエネルギーや時間を費やしてきた人が、果たして、退職後に自分のために費やせるのだろうか?」

60歳の定年退職後でないと自分の好きなように人生が送れない社会。もし、そうであるならば、定年退職までの人生とはいったい何なのか。楽しい人生とは退職後でなければ存在しないのか。そのようなことは断じてないと私は思います。

このような見方が生まれてくる原因としては、企業組織というものがもつ「文化」や「習慣」というのが大きいのでしょう。しかし、私は、企業組織の中で無意識に依存し、組織にぶら下がってしまう人間の精神構造にこそ、もっと大きな原因があると思います。

「会社のために仕方なくやった」という台詞はサラリーマンの人から頻繁に聞かれる言葉です。しかし、このような台詞を言う人は、結局、自分の人生の選択責任を会社に転嫁している場合が多いのではないでしょうか。

会社のせいにすることで、自分で自身の生きる道を切り開くことから逃避しているだけではないのか−−− 最近逮捕された雪印食品社員の談話にも同様の台詞がありましたが、このような疑問で一杯になります。

宮本さんの著書は、特にそのような会社への依存意識が強まっている50代のサラリーマンに対して、意識改革を呼びかけていらっしゃるように思えます。宮本さんが在職中に、「退職後では遅い。今から始めなければ。」と思い立ち、その後、大変な悪戦苦闘をされた体験をもとに、我々に次の言葉とともにエールを飛ばして下さっているのです。


「思い立った日が誕生日。隗より始めよ。」


なお、この本はもともと私家版でしたが、5月下旬に三笠書房より発売されることになりました。

 

 

 
 
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